「猫の種類は数あれど」黒猫編
黒猫が目の前を横切ると、「不吉なことが起こる」と顔をしかめる人もいれば、「幸せの前兆!」と喜ぶ人もいますね。良くも悪くも人々の想像をかきたてるミステリアスさが、黒猫の大きな魅力。そんな黒猫について調べてみました。
「黒猫の日」が世界中にある悲しい理由

キリスト教圏における黒猫のイメージは、ご存じの通り「魔女の手先」であり、不吉の象徴。中世から続くこの迷信は、21世紀となった現在も根強く、保護猫の譲渡でも黒猫は人気が少ないほどです。
そこでイメージアップを図るために愛猫家たちが考え出したのが、黒猫の日。2011年、黒猫をこよなく愛していた家族の命日=8月17日を「黒猫感謝の日(Black Cat Appreciation Day)」にするべく、アメリカの愛猫家がFacebookにイベントページを作成したのがきっかけです。
アメリカ以外でも、10月27日はイギリスの「黒猫の日」。そして11月17日はイタリアの「黒猫の日」。黒猫の魅力をアピールしたり、迷信による虐待を防ぐ啓蒙イベントが行われたりしているそうです。
黒猫といえばあまのじゃくなあの子

一方、日本では黒猫は古来より「福猫」と呼ばれ、幸運の象徴とされてきました。ですが、現代日本で黒猫のイメージが良いのは、やはり角野栄子の名作児童文学「魔女の宅急便」の影響でしょう。
スタジオジブリの劇場アニメーションとしても、幅広い世代に愛されている名作「魔女の宅急便」。13歳の少女キキが魔女としてひとり立ちする成長物語ですが、そのキキの相棒が黒猫・ジジです。
辛辣な小言も言う皮肉屋で、こっそり好奇心旺盛で、キキの様子は横目でそ~っと見ている。相棒が困ったときは文句を言いながらも、しょうがないなと一肌脱いでくれるあまのじゃく。このひねくれ屋さんの感じ、猫のかわいさが詰まっていると思いませんか。
しかし実際の黒猫の性格は、ジジとはちょっと違うようです。

「三毛猫は好き嫌いがはっきりしていてマイペース」「キジトラはワイルドで警戒心が強め」など、毛色や模様と性格が関係するという話、猫飼いさんであれば聞いたことがあるのではないでしょうか。
残念ながら現時点では性格に関する遺伝子は見つかっておらず、色柄と性格の科学的な関連は解明されていません。ただし、多くの猫を対象にしたアンケートや行動テストは国内外で行われ、研究が進んでいます。それによれば、色柄と性格には何らかの関係はありそうだ、とのこと。
調査によると、黒猫の性格は「人懐っこい甘えん坊」! 神秘的な見た目とは裏腹に、社交的で友好性が高く、家族以外の人間や他の猫とも仲良くできる子が多いです。
また好奇心旺盛で賢く、遊ぶのが大好き。キャットタワーなどを用意して、思いっきり遊べる環境を整えてあげると良いでしょう。「猫というより犬みたい」と話す飼い主さんもいるほどコミュニケーションを好むので、ボールや猫じゃらしといった一緒に遊べるおもちゃもおすすめです。
すべての黒猫は親戚同士?

黒猫の「甘えん坊」という性格は、科学的根拠がないにも関わらず、多くの黒猫に見られます。実はこれについて、ある興味深い説があります。
猫の祖先であるリビアヤマネコの色柄は、どの個体も同じキジトラです。この色柄がリビアヤマネコが暮らす環境では、もっとも生存率が高い保護色だったのですね。
というわけで、猫の色柄の元祖もキジトラ。しかし人と一緒に暮らして保護されるようになったことで、突然変異で発生した様々な色柄の猫も、生き残れるようになったのです。むしろ珍しい毛色や柄は、人間たちに手厚く保護されたかもしれません。こうして多種多様な色と柄を持つ猫たちが生まれるようになりました。
全身真っ黒になるのも突然変異のひとつで、「メラニズム」と呼ばれます。これは多くの動物で見られる変異で、黒ヒョウや黒ジャガーもメラニズムの一種。ただし、同じメラニズムであっても変異が起きるDNAは決まっておらず、同時多発的に生まれた場合は異なる場所に変異が見られます。
しかしある調査で、世界各国から集められた50匹以上の黒猫のDNAを調べたところ、同じ場所に変異が起きていたことがわかりました。つまり、この猫たちは同じ1匹の黒猫の遺伝子を引き継いでいたのです。
ここから、「突然変異によって生まれた1匹の黒猫から、黒猫の遺伝子が世界中に広まったのではないか」という説が生まれました。黒猫たちの性格が似ているのは、同じ遺伝子を引き継いでいるからなのかもしれませんね。
平安時代の帝をも魅了

優美で艶やかな漆黒の体に、きらりと光る瞳。私たちと同じように、多くの歴史上の人物たちも黒猫独特の魅力に惹きつけられてきました。
日本最古の黒猫を愛した人と言えば、平安前期の宇多天皇。その日記である「寛平御記」には、父・光孝天皇から譲り受けた黒猫を溺愛する様子が記されています。ちなみに日本の猫は、仏教の経典と共に中国からやってきたというのが通説ですが、弥生時代には既に存在したという説も。
また明治時代の文豪・夏目漱石による「吾輩は猫である」。作中の「吾輩」は黒猫ではありませんが、モデルは漱石の家に住み着いた黒猫だと言われています。漱石の妻は猫嫌いでしたが、「爪先まで黒いこの猫は福猫だ」と聞いてからは、大事に世話したそうですよ。
この「福猫」というのは、江戸時代には言われていた言い伝え。黒猫は強い霊力や魔除けの力を持っており、労咳(肺結核)を治すとも。今でも黒の招き猫は、魔除け・厄除けの力を持つと言われています。
幸せをもたらす幸運の猫

一方、キリスト教圏では黒猫に不吉なイメージを持つ国が多いのですが、イギリスやフランスでは少し様子が違うようです。
イギリスでは、黒猫には美徳と力が備わっていると信じられており、好意的に迎えられます。ある地方では黒猫は幸運をもたらすと考えられ、黒猫を見たら願いごとをするのが習わしだそうです。賭けごとのときは黒猫の毛を身につけたり、事前に黒猫の背中を7回なでると良いのだとか。
また、若い女性が黒猫と暮らすと、多くの男性に愛されて良縁に恵まれるとも言われています。さらに新婚夫婦に幸せで愛情にあふれた結婚生活をもたらすとも言われており、結婚祝いに黒猫を贈ると幸せが訪れるという言い伝えも。
フランスの多くの地方でも、黒猫は幸運の象徴です。飼い主に幸福をもたらし、魔法使いや魔女を遠ざける力を持っていると信じられているそうですよ。花嫁のそばで黒猫がくしゃみをすると、幸せな結婚になるとも言われています。
ミステリアスで優美な外見と、甘えん坊な性格のギャップがたまらない黒猫。ぜひ「幸運の猫」というイメージが広まり、ひとりでも多くの人にこのかわいらしさを知ってほしいですね。
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