「猫の種類は数あれど」アメリカンショートヘア編
長年の王道人気を誇る猫種
その名の通りアメリカ生まれのアメリカンショートヘアは、開拓時代の厳しい大自然を生き抜くために進化した、健康でたくましいタフな猫。そして快活でフレンドリーな性格と、まさに“アメリカン”の名にふさわしい猫です。
人気猫種ランキングでも長年上位に入っている王道の猫種。「アメショ」という愛称まで多くの人が知っているのだから、いかに人気があるかわかります。
アメリカンショートヘアが日本に入ってきたのは、1980年代前後。といっても、平成前半頃までは、まだまだ「猫といえば雑種」という時代だったように思います。そういえば昔の『ドラえもん』では、スネ夫が血統書付きの猫を自慢していました。
ちなみに、一般社団法人ペットフード協会が公開している「令和5年(2023年)全国犬猫飼育実態調査」によると、現在飼われている猫のうち純血種の割合は19.7%。犬の87.9%という数字とはずいぶん違っていて、興味深いですね。
外国からやってきた、フレンドリーな猫
筆者がアメリカンショートヘアを知ったのは、90年代前半の頃でしょうか。まだ子どもだった筆者にとって、純血種の猫といえば、ペルシャやチンチラといったゴージャスな長毛種や、毛色が特徴的でシャープな体型のシャム。それも実際に遭遇することはほとんどなく、マンガやテレビやぬいぐるみを通して知ったと記憶しています。
見るからに雑種の猫とは違う!と思える彼らと違って、テレビで見掛けたアメリカンショートヘアは、なんだか街角にいそうな大きさ、毛色、毛の長さ。でもやっぱり、三毛猫やトラ猫たちの和風な佇まいとは違う野性味があって、海外の女優さんのようなアーモンドアイがキュートで。これが血統書付きの猫?と首を傾げつつも、その姿に憧れも感じたことを覚えています。
アメリカンショートヘアの平均体重は、オスなら4~7kg、メスなら3~6kg。サイズとしては中型~大型で、骨太で筋肉質。和猫(古くから日本で暮らす猫)は中型が標準ですから、見比べてみるとアメリカンショートヘアのほうがひと回り大きく、がっしりとした体型なことがわかります。
何より大きな違いは、やはりあの毛色&模様。シルバーの地色に、幅広でうねりのある黒いしま模様(クラシックタビー)。身体の横に独特の大きなうず巻き模様(ターゲットマーク)が入り、おでこにはM字の模様。目尻には凛々しい“クレオパトラライン”、肩には蝶のような“バタフライマーク”が入り、兄弟でもそれぞれ違った模様を描きます。
ただし、日本ではこのシルバークラシックタビー=アメショ柄というイメージが定着していますが、これは間違い。シルバー以外に、レッド、ブラウン、クリームなど多くの毛色があり、ブラックやホワイトの猫も。さらに柄もクラシックタビーだけでなく、細かいしま模様のマッカレルタビー、ソリッド(単色)、バイカラー(二色)などさまざま。非常に豊かなバリエーションが生まれうる猫種なのです。
ネズミ狩りの名人! 開拓時代の頼れる相棒
このように、憧れと親しみやすさのバランスが絶妙な猫、アメリカンショートヘア。その歴史は、17世紀までさかのぼります。1620年、イギリスからアメリカ大陸へ入植者たちを運んだ船、メイフラワー号。その積み荷をネズミから守る“ワーキングキャット”として人々が連れてきた猫が祖先と言われています。
船の上でネズミ狩りをしていた猫たちは、上陸したあとも農場や住宅でネズミやヘビの退治に大活躍。たくましくて狩りが上手、さらに人懐っこい性格の彼らは、多くの人に愛されながら現地の猫たちと交配を繰り返していきました。
そんな彼らの別名は「マウサー(mouser)」。厳しい環境の中で暮らしていた人々にとって、いかに頼もしい存在だったかが伝わってくるようです。どんどん数を増やしていった彼らは、いつしかアメリカのどこにでもいる、ごく普通の猫に。ちょうど日本の三毛猫や茶トラのような立ち位置だったのかもしれませんね。
やがて1900年代はじめ、愛猫家たちからこの種を保存しようという声があがり、アメリカンキャットクラブに「ドメスティックショートヘア」という名前で登録。その後、さらに繁殖と改良が進められ、1960年代に「アメリカンショートヘア」という名前に変更されました。
遊び好きだからこそ運動不足は大敵
こういった歴史を持つ猫ですから、性格は推して知るべし。狩りが上手ということは、好奇心旺盛で遊び好き。物怖じしない陽気な性格で、やんちゃないたずらっ子とも言えるでしょう。人懐っこくフレンドリーな一方、猫らしく自立心が強い一面もあるので、スキンシップを嫌がることも。
また外見にも“ワーキングキャット”らしさが。筋肉質な身体はもちろん、頬が発達しているのでふっくらしており、あごはがっしりしていて頑丈。密に生えている被毛は硬めで、暑さ寒さや厳しい環境からも身体を守ってくれています。
そして身体能力が高くて運動量が多いということは、裏を返せば肥満になりやすいということ。一緒に遊ぶ時間をとったり、キャットタワーを設置するなどして思いっきり運動させつつ、食事量も調整して、体重管理をしっかりしていく必要があります。
肥満になってしまうと、関節への負担が重くなることから関節疾患になりやすくなり、「糖尿病」や「肥大型心筋症」のリスクが上がることに。基本的には丈夫な品種ですが「多発性嚢胞腎(せいたはつせいのうほうじん)」もなりやすいと言われています。
「アメショ」で思い出す名作SF
ところで、アメリカンショートヘアと聞いて思い出されるのが、ロバート・A・ハインラインの名作SF小説『夏への扉』(ハヤカワ文庫)。以前の表紙(2010年版)には、ブラウン系のアメリカンショートヘアと思しき猫の後ろ姿が大きく描かれ、とても印象的でした。つややかで丸い頭の感触を手のひらに感じられそうなほど、リアルで美しい毛並みだったんですよ。
日本では「猫SFの代表作」とまで言われているこの作品。主人公の愛猫ピートは冬になると、家にあるドアのどれかひとつが夏に通じていると信じて、家じゅうのドアを主人公に開けさせて回ります。そんなある日、手酷い裏切りに遭った主人公は、30年間の冷凍睡眠に……というタイムトラベル小説です。
2020年には山﨑賢人さん主演で実写映画化もされ、ブラウン系のアメリカンショートヘアの俳優猫が出演していたのですが、実は原作では猫種は明記されていません。でもアメリカンショートヘアの歴史を知ると、アメリカの小説にただ“猫”と書かれていたら、アメリカンショートヘアを想像せずにはいられませんよね。
ちなみにこの映画に出演していた俳優猫くんは、動物写真家の岩合光昭さんが監督した映画『ねことじいちゃん』(2019年)で主演を務めた猫。多数のドラマやCMにも出演している、有名な猫なんだそうです。
おわりに
アメリカンショートヘアは、厳しい自然を生き抜いてきた頑丈さと陽気な人懐っこさを併せ持つ、アメリカンな猫。順応性が高く、賢くフレンドリーなので飼いやすいと言われますが、やんちゃでいたずら好きな一面も。見た目の愛らしさだけでなく、そのアクティブな気質もひっくるめて、理解してお迎えしたいですね。
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