「猫の種類は数あれど」三毛猫編
和の光景が似合う懐かしい猫
三毛猫。ミケ。その姿を思い浮かべてみると、どうにも和の光景が頭の中に広がります。たとえばうららかな陽の当たる縁側。たとえば寒い冬の夜のこたつ。ゴロンと横になって毛づくろいをしている様子や、ちんまりと香箱座り(前足と後ろ足をお腹の下にしまった座り方)をして目を閉じている姿が浮かんできませんか。
おせんべいやみかんが似合う「ザ・日本の猫」な三毛猫。実際には海外からやってきた猫種にも3色の毛色を持つ猫はいるのですが、私たちに馴染み深いのはやはり、日本に古くから暮らす雑種の日本猫たちです。
毛色のバリエーション豊かな海外の猫たちと違って、日本猫の基本の毛色は「黒」「茶(正確には茶キジ)」「白」の3色。この3色すべての毛を持っているのが三毛猫になるわけですね。
三毛猫に学ぶ遺伝子のふしぎ
猫好きな人であれば、「三毛猫はほとんどがメス」「オスの三毛猫は縁起がいい」と聞いたことがあるのではないでしょうか。これは都市伝説ではなく、本当に三毛猫のオスが生まれることはごくまれ。生まれる確率は5千分の1~3万分の1と言われています。
この理由は、毛色を決める遺伝子にあります。
日本猫の毛色は8種類の遺伝子(4種類の遺伝子座)の組み合わせで決まります。「黒キジ」を生やす遺伝子と、「黒」を生やす遺伝子(A/a遺伝子)。黒系の色を打ち消して「茶」を生やす遺伝子と、生やさない遺伝子(O/o遺伝子)。お腹に「白」を生やす遺伝子と、生やさない遺伝子(S/s遺伝子)。そして、ほかの色を打ち消して全身を真っ白にする遺伝子と、しない遺伝子(W/w遺伝子)です。
三毛猫の場合に注目したいのはO/o遺伝子。「O遺伝子」を持っていれば黒系の毛は生えずに茶が生え、「o遺伝子」なら黒系の毛が生えて茶は生えません。では、両方を持っていたら? 「Oo型」であれば、「O遺伝子」が働いて茶が生える部分と、「o遺伝子」が働いて黒系が生える部分、それぞれが現れて三毛猫(またはサビ猫)になります。
三毛猫のオス、茶トラのメス
そこでポイントになるのが、O/o遺伝子がある場所。この遺伝子は、性別に関わるX染色体の上にあるのです。人間と同じく猫の性染色体も、メスはX染色体が2本(XX)、オスはX染色体とY染色体が1本ずつ(XY)。するとメスは「O遺伝子」と「o遺伝子」を同時に持つことができ、「Oo型」が可能になります。しかしX染色体をひとつしか持たないオスは通常「O型」か「o型」のみ。これによって、三毛猫のオスが生まれることはほとんどありません。
ところが、ごくまれに「XXY型」のオスが生まれることがあり、このオスが「O遺伝子」と「o遺伝子」の両方を持ったとき、オスの三毛猫が生まれるというわけです。ただしこれは「クラインフェルター症候群」という染色体異常のため、オスの三毛猫は子どもを作れず、あまり長生きもできないそうです。
また、茶キジ(茶トラ)のメスが比較的少ないのもこれが理由。オスなら「O型(茶キジ)」か「o型(黒・黒キジ)」の2パターンしかないところ、メスは「OO型(茶キジ)」「Oo型(三毛・サビ)」「oo型(黒・黒キジ)」の3パターン。そのため「茶トラはオスが多い」と言われているのです。
南極を縄張りにした三毛猫
そんなわけでオスの三毛猫は非常に少ないため、「幸運を呼ぶ」「船に乗せると遭難しない」と言われています。その貴重な1匹が、第1次南極観測隊の安全を祈念して、南極観測船「宗谷」に乗せられた猫・たけし。永田武隊長の名前から名付けられたこの猫は、1956年11月、乗組員や観測隊員、樺太犬たちとともに旅立ちました。
たけしが生まれたのは、出発のわずか2か月前の9月8日。船上ではまだまだ小さな仔猫だったわけですから、きっと大いにかわいがられたことでしょう。到着後は南極の気候にも慣れ、南極で生まれた仔犬たちとたっぷり遊ぶ日々。越冬を果たして1958年には再び「宗谷」に乗り、無事に帰国しました。
当時のたけしの写真は、現在、国立極地研究所のHPに掲載されています。かわいがられてふくふくと大きくなった姿や、お手製の救命胴衣を着せてもらった姿などを見ることができますよ。
3色の毛色
3種類の毛色を持つ猫はみんな「三毛猫」ですが、その色の割合などで、随分と印象が異なりますよね。
たとえば「三毛猫」と言われたときに思い浮かぶベーシックなタイプは「黒三毛」。黒い部分にキジ模様が入っておらず、色の境目がくっきりしているのが特徴です。黒い部分にキジ(トラ)模様が入っていると「キジ三毛」。ただし、この呼び分け方にはいろいろな説があるようです。
3色の毛を持っているけれど、全体的に白の割合が多くて黒と茶が少ない場合は「飛び三毛」。色が飛び飛びに入っている三毛、という意味ですね。この白い毛の割合を決めているのが、前述の「S/s遺伝子」になります。
淡い色合いの三毛の場合は「パステル三毛(ダイリュート・キャリコ)」。ダイリュートは「薄める」、キャリコは「三毛」という意味です。これは海外の猫たちが持つダイリュート(D/d)遺伝子が関係しています。たとえばロシアンブルーの毛色は、黒のダイリュート色ですね。
「ミケ」と呼ばれているジャパニーズ・ボブテイル
欧米では三毛は珍しいと言われていますが、純血種にも三毛が現れることがあります。中でもスコティッシュフォールドやミヌエット、ノルウェージャンフォレストキャットなどは、三毛が現れやすい猫種と言われています。
しかし純血種で三毛というと、やはり日本猫から生まれた「ジャパニーズ・ボブテイル」が王道でしょう。バランスの良い体型に、世界的にも珍しい短いしっぽ。60年代に日本猫に魅了されたアメリカ人ブリーダーが連れて帰り、アメリカで繁殖計画に着手。その後、1979年に血統登録機関のTICAで公認されました。
ジャパニーズ・ボブテイルは温和な性格で、2.5~4.5kgの小型~中型猫。さまざまな毛色&模様がいますが、やはり人気が高いのは日本猫らしい三毛だそう。ほかの猫種の三毛は「キャリコ」ですが、ジャパニーズ・ボブテイルの三毛だけは海外でも「ミケ」と呼ばれているほどです。
賢くてマイペースな、猫らしい猫
優しく、賢く、温和な性格。ジャパニーズ・ボブテイルのこの性質は、雑種の三毛猫たちにも通ずるものがあります。三毛猫の性格としてよく言われるのは、賢くて人の好き嫌いがはっきりしており、マイペース。自立したクールさを持っている反面、心を許した人には甘えん坊になる時間もあり、オンオフがはっきりしている性格です。
また、これは三毛猫のほとんどがメスだからかもしれませんが、母性が強い猫が多い傾向。仔犬や仔猫のお世話をしてくれるだけでなく、ほかの猫や自分より大きな犬にも立ち向かう気の強さを持っているという面もあるようです。
基本的には雑種ですから、さまざまな性格の猫がいるわけですが、「猫らしい性格」と評されることが多い三毛猫。古くから「幸運を呼ぶ猫」と呼ばれ、日本人の心を和ませてきた三毛猫たちが、これからも日向ぼっこをしながら穏やかに暮らせますように。
参考資料:
「猫柄図鑑」(監修:山根明弘/発行:日本文芸社)
国立極地研究所 アーカイブ室「南極へ行った猫 たけし」
(https://polaris.nipr.ac.jp/~archives/contents/takeshi.html)
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