「この世界は、優しさのほうがずっと多い」funnyCat&Dog代表・松木奈緒子さんインタビュー
2015年の開業以来、1000頭を超える猫たちを保護し、新しい家族を見つけてきた、埼玉県狭山市の保護猫カフェ「funnyCat」。
運営しているのは、ピースニャンコのチームメンバー・松木奈緒子さんが代表理事を務める、特定非営利活動法人「funnyCat&Dog」だ。
勢いと情熱で始めた保護猫カフェ

「カフェを始める前は、『なんでこんなに酷い人がいるんだ!』とか、そういうことばっかり考えていたんです。悪質なブリーダーに腹を立てたり、多頭飼育崩壊に『なんでこんな状態にしちゃったの、なんで周りも見て見ぬふりだったの』って思ったり」
保護猫カフェ「funnyCat」を運営しながら、自身のトリミングサロン「funnyDog+」でトリマーとして働く松木さんは、昔を振り返ってそう語る。2015年6月の開業から10年。「funnyCat」は、動物指導センターや多頭飼育崩壊などの場から、多くの猫や犬をレスキュー。今やその数は、年間150~200頭にものぼる。
元々松木さんは、犬や猫を保護しては治療し、里親を見つける活動を個人で行っていた。だから、トリミングサロンの2階が長いこと空き店舗だと気付いてから、ずっと考えていた。ここで動物のために何かできないか、と。
「ちょうどその頃、同じ埼玉県内の川越に保護猫カフェができたと知って、お話を聞きに行ったんです。そこで背中を押されて、『頑張ればやれるかな』って。勢いに任せて始めました(笑)」
そう語る松木さんは、とにかくエネルギッシュでフレンドリー。カフェの開店前は、トリミングサロンの仕事を終えてから猫たちの世話をし、夜な夜な自分で壁を塗る日々だったという。
そんな苦労話も、快活な彼女が語ると、まるで爽快な青春映画のワンシーン。
「実際に始めてみたら、『助けよう』と思ってる人たちのほうが多いんだよなって、気付いて。優しい気持ちを持っている人のほうが圧倒的に多くて、悪い人なんてごく一部。そういうのに気付けて良かったな、大変なこともあるけどやって良かったなと思いますね」
保護猫カフェってどんなところ?

保護猫カフェの最大の目的は、猫たちの里親探し。入場料は運営資金となるため、里親希望ではなくても「遊びに行くだけで支援になる」と言われるが、実際のところはどうなのだろう。
たとえば筆者は猫アレルギーの家族がいるため、里親になるのは難しい。猫たちにとって一番の幸せは“ずっとの家族”に迎えられることだと知っているからこそ、「行くだけ」というのが冷やかしのようで躊躇してしまう。
そんな本音を打ち明けると、松木さんは目を丸くした。
「飼えなくても、猫が好きな人なら大歓迎! 入場料などは全部運営費にしているので、来てもらえるだけで猫のためになりますよ!
実際、仕事が忙しいから飼えないけど、猫が好きで通ってくださる常連さんもいるんです。しかもその方のおかげで、スタッフも長年触れなかった猫が人にすっかり慣れて、この間譲渡会にも参加できました!」
その譲渡会が、なんとピースニャンコが開催した「わんにゃんふれあい会」。猫たちにとって、来店者の存在は大きな意味を持っているのだ。
「ピースニャンコ」がつなぐ、支援のリレー

「funnyCat」の活動を、さまざまな形で支援しているピースニャンコ。そのひとつが、前述の譲渡会「わんにゃんふれあい会」だ。
「うちは保護頭数が多いので、里親募集サイトに登録して、カフェのInstagramやXの投稿もして、譲渡会に参加して……と、少しでも出会いの場を広げるために頑張っています。東京の譲渡会にはあまり参加していなかったので、ピースニャンコさんの譲渡会という場が増えてありがたいですね! 実際、この間の譲渡会がきっかけで家族が決まった子もいるんです」
人間の出会いも、どこにあるかわかりませんからね!と、松木さんは茶目っ気たっぷりに笑う。
「それに、ピースニャンコさんの医療費支援は、本当にありがたいです。やっぱり活動を続ける上で一番キツいのって、医療費なので。他の団体さんの話を聞いていてもそうです。避妊去勢手術だけじゃなくて、病気の治療も必要なわけじゃないですか。
例えば、今はFIP(猫伝染性腹膜炎)が治療で治る病気になりましたけど、治療にはまとまったお金がかかる。他の病気でも、大学病院で詳しい検査をしたら助かるかもしれないけど、それにも費用がかかる。その団体の状況によっては、諦めるしかないってこともあるかもしれない。でもそこで、ピースニャンコさんの支援で治療が受けられれば、その猫に未来を残せるんです」
それってすごいことですよ、ありがとうございます! その松木さんの言葉に、私たちのほうが勇気をもらった気がした。
子どもたちに保護猫の存在を伝えたい

多くの人が訪れる保護猫カフェだからこそ、できることがある。
「funnyCat」では毎月さまざまなイベントを行っているが、中でも好評なのが「お世話体験」だ。
トイレ掃除、部屋の掃除、ブラッシング、爪切り……。「ごはんをあげて、なでなでして、遊ぶだけ」ではない、生きもののお世話の大変さと楽しさをリアルに体験できる。あまりに好評で、2回目からは大人も参加OKになったほどだ。
「『子どもたちが保護猫について知ることで、未来が少しでも変わるのでは』という想いで、夏休みの職業体験として始めました。発案してくれたスタッフは、『生きものを飼うってことは、毎日こういうお世話をしなきゃいけないことだと知ってもらえたら』とも言っていましたね。
でも参加してくれた子たち、ネガティブな反応はほとんどなかったんです。みんな『楽しかった』『かわいかった』と言ってくれて、トイレ掃除も嫌な顔せずに一生懸命してくれて。この企画がきっかけで、家族が決まった猫もいたんですよ」
動物を飼うには責任がともなうこと。保護猫という選択肢があること。そのために活動している大人たちがいること。
それらの知識は、きっと子どもたちの中で小さな種となり、いつか芽を出すことだろう。
できるときにできることをやっただけ

トリマー、経営者、保護猫活動家であるだけでなく、保育園児のお母さんでもある松木さん。四足の草鞋を履いて全力疾走している彼女にとって、毎日はあっという間だ。
「もうね、気付いたら寝る時間ですよね(笑)。今だったらとてもじゃないけど、トリミングサロンをやりながら保護猫カフェを立ち上げるなんて、できなかったんじゃないかな。当時は独身で時間もあったし、何より父がすごく応援してくれたんです。カフェのオープンから1年後に父は亡くなったんですが、あの応援がなかったらトリミングサロンもカフェもやってなかったと思う」
あのタイミングだったからできただけだし、できることをやっただけ。あっけらかんと言い切る松木さんに、むしろ、こう言える人だから今も走り続けていられるのだなと確信する。けっして、誰にでもできることではない。
今、松木さんが感じているやりがいや喜びは、どんなことだろう。
「やっぱり『人が喜んでくれる』ってことかな。犬や猫が喜んでくれるのが嬉しいのはもちろん、その向こうにいる飼い主さんや里親さんから『funnyCat&Dogと出会えてよかった』と言ってもらえるのが、一番ですね」
保護猫カフェが必要なくなる未来へ

常に明るく前を向いて、走り続ける松木さんの目には、どんな未来が映っているのか。松木さん、これからの目標は何ですか?
「個人的に目指しているのは、カフェの明るい閉店。もう保護する子がいなくなっちゃって、『もう保護猫カフェ、いらないね』ってなることです。
動物指導センターで処分される犬も猫もいなくなって、悪質なブリーダーもいなくなって、福祉の目が行き届いて多頭飼育崩壊も予防されて。そういうことが重なり合って、『保護猫カフェなんてもう必要ないね』って世の中になる未来がいいなと思うので。
まずは埼玉の殺処分数ゼロを目指して、そこから頑張っていきたいですね!」
きっと彼女のような人がいる限り、世界は少しずつ変わっていく。
取材・執筆 熊倉久枝
編集者、ライター。編集プロダクションを経て、2011年よりフリー。インタビュー記事を中心に、雑誌、WEBメディア、会報誌、パンフレットと多様な媒体の企画編集・ライティングに携わる。ペットメディア歴は、10年以上。演劇、映画、アニメ、教育などのジャンルでも活動。
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