愛猫との暮らし方
2025.06.20
2025.06.24

『重症熱性血小板減少症(SFTS)』とは?2つの感染経路、症状・対処法を詳しく解説【獣医師監修】

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2025年5月、「重症熱性血小板減少症(SFTS)」に感染していた猫を治療した獣医師が死亡するというニュースが報道されました。さらに、これまではSFTSの感染例や死亡例は西日本の複数の県において確認されていましたが、5月に関東でもSFTSに感染した飼い猫が発症後に死亡していたことが判明。この一連の発表を受け、獣医師会から感染対策の注意喚起が促されるなど、不安を感じられている飼い主や保護猫活動のボランティアの方々も多いのではないでしょうか。

SFTSは、マダニが媒介する感染症です。SFTSは発症した猫から人へ感染する場合もありますが、このケースはごく稀で、大部分はマダニから直接感染します。病気について正しく知ることで、冷静かつ適切に備えることができます。

この記事では、SFTSとはどんな病気なのか、その特徴や感染経路、症状、そして具体的な予防策について、獣医師の視点からわかりやすくお伝えします。

目次

SFTSとはどんな病気?

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はじめにSFTSの特徴を解説します。

マダニが媒介するウイルス性感染症

SFTSは「SFTSウイルス(SFTSV)」によって引き起こされるウイルス性感染症です。SFTSVを体内に保有するマダニに刺されることで動物や人にウイルスがうつされ、感染が広がります。

特に西日本を中心に発生が多く、今年の春以降、香川・三重・愛媛・高知などで複数の感染例や死亡例が確認されています。日本だけに限らず、東南アジアで増加傾向にある病気です。

日本では、主にフタトゲチマダニが媒介する

日本には、47種のダニが生息しているといわれています。そのうち、SFTSを主に媒介しているのはフタトゲチマダニという種です。

フタトゲチマダニは、西日本の野山や田畑、市街地の草むらなどに生息しており、春〜秋にかけて活動が活発になります。春以降に西日本での報告が多いのはそのためです。近年の温暖化の影響で少しずつ生息域は東に広がっていると考えられています。

フタトゲチマダニの吸血前の体長は2〜3mmほどのため、人やペットの体に付着していてもわかりにくく、気づかずに刺されてしまうことがあります。吸血後は、特にメスは最大で1cm以上の豆粒大に膨れ上がり、体も血液が透けて赤褐色をしています。ここまでのサイズになると見つけることも可能です。

家の中のダニはSFTSと無関係

SFTSの原因となるマダニは、カーペットやクッションなどをすみかとするイエダニやツメダニ、ハウスタストアレルギーの原因となるヒョウヒダニとは、まったく別の生き物です。したがって、室内にいるダニに刺されてもSFTSに感染する心配はありません。

人獣共通感染症

SFTSは、人と動物の両方に感染する「人獣共通感染症」です。猫や犬もウイルスを保有するマダニに刺されると感染する可能性があるため注意が必要です。

人への感染経路

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人への感染ルートは、主に2つあります。

  • マダニの咬傷から感染
  • 発症した猫からの間接的な感染

感染ルート①:マダニの咬傷から感染

人のSFTSでは、大半が野外活動中にマダニに刺されたことによる直接的な感染です。マダニは山林だけでなく、家の周りの野原や田畑、草むらにも生息しています。SFTSの発症者は高齢の方が多いですが、農作業中に気づかないうちに刺されていたというケースもあります。

感染ルート②:発症した猫からの間接的な感染

近年、SFTSを発症した猫から人への感染事例も報告されています。発症中の猫の唾液や血液などの体液にはウイルスが多く含まれるため、咬まれたり、体液が傷口に触れたりすることで人に感染することがあります。

こちらのケースはごく少数ではありますが、保護猫活動や動物病院に連れて来られた野良猫の取り扱い時には十分な注意が必要です 。

人と猫で見られる症状

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SFTSに感染したときにみられる症状について、人と猫でそれぞれ解説します。

人の症状

感染から1週間程度で症状が現れます。主な症状は以下のとおりです。

  • 発熱
  • 吐き気、嘔吐、下痢などの消化器症状
  • 強いだるさ
  • 血小板の減少による出血傾向(鼻血、歯ぐきからの出血)
  • 意識障害
  • けいれん

重症化すると多臓器不全をおこし、死亡に至ることもあります。致死率は15〜30%と高く、高齢、持病などのリスクがある方は特に注意が必要です。

猫の症状

猫も感染から数日で症状が現れると考えられています。主な症状は以下のとおりです。

  • 40度近い高熱
  • 食欲不振、元気消失
  • 嘔吐、下痢、血便などの消化器症状
  • 黄疸(白目や皮膚が黄色くなる)
  • 血小板減少による出血
  • 脱水症状
  • 神経症状

猫は短期間で症状が急激に悪化し、致死率は60〜70%と言われています。

国内で犬の発症例はわずか

国内でも犬のSFTSの感染例はありますが、多くの場合は発症しません。まれに発症した例も報告されていますが猫に比べると軽症で、死亡することは少ないと言われています。

SFTSの感染を予防するために

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SFTSの感染を防ぐための対策をみていきましょう。

人のマダニ対策

アウトドアや畑仕事など屋外で長時間過ごすときは、マダニ対策をしましょう。ポイントは以下の2点です。

  • 肌を露出しない
  • 虫除けスプレーを適切に使う

肌を露出しない

長袖・長ズボン・帽子・手袋を着用し、できるだけ肌の露出を避けましょう。首、足首などマダニが服の中に入り込みやすい部分には、タオルを巻いたり、靴下の中にズボンの先を入れたりしてマダニの侵入をシャットアウトしましょう。

虫除けスプレーを適切に使う

ディート、イカリジンの2種類がマダニの忌避効果があるとして認可されています。

ただし、忌避剤でマダニの付着を完全に防ぐことはできないので、衣類なども工夫したうえで虫除けスプレーも使うのが効果的です。

猫のマダニ対策

野良猫を含め屋外で暮らしている猫や、保護されたばかりの猫、飼い猫であっても外と室内を行き来している場合は、マダニに刺されるリスクが高くなります。

猫のマダニ対策には、以下の方法が有効です。

  • 完全室内飼育
  • 駆除薬を使う
  • 外から帰ってきたときのブラッシング

動物病院で処方されるマダニ予防薬を定期的に使用し、猫が外から帰ってきた後はブラッシングでマダニを取り除く習慣をつけましょう。

駆除薬は、スポットタイプ、内服薬などいくつかの種類があります。多くの動物病院で推奨されているのは、スポットタイプの薬を1ヵ月に1度、首の後ろに滴下する方法です。市販の殺虫成分入り首輪は、接触部位に皮膚炎を起こしたり、引っかかって首を締める事故が起こる可能性もあり、おすすめできません。

発症した猫からの感染対策

飼い猫や保護した猫に発熱や出血、元気消失などの体調不良があるときは、速やかに動物病院で診察を受けましょう。

受診の際には、マダニの駆除歴や、飼育場所は必ず獣医師に伝えてください。これらの情報は、動物病院スタッフを守ることにも繋がります。

またSFTSに限らず、さまざまなペット由来の感染症を防ぐため、キスや食べ物の口移しなど猫との濃厚接触はやめましょう。

保護猫活動をされている方へ

野良猫を保護するときは猫がマダニ対策をしていないことを前提に、軍手や長袖を着用して慎重に対応しましょう。自分に傷口があるときは、そこに猫の体液が触れないように注意が必要です。

まとめ

SFTSは、人や猫で死亡例の報告もあるウイルス性の感染症です。日本でも2025年4月末までに人で12件の感染報告があり、例年と同じくらいのペースで推移しています。

人の予防で大事なのは、屋外に出るときは衣類や虫よけスプレーでマダニ対策を徹底すること、発症している猫からの感染を防ぐことです。

猫は、屋外に出さないこと、マダニの駆除薬を使うこと、外から帰ってきたらブラッシングをしてマダニを落とすことが大切です。

マダニ感染は大部分がダニの咬傷によるもののため、正しい知識と予防策で、SFTSのリスクは大きく減らせます。今日からできる対策で、大切な命を守りましょう。

【執筆・監修】
獣医師:安家 望美
大学卒業後、公務員の獣医師として家畜防疫関連の機関に入職。家畜の健康管理や伝染病の検査などの業務に従事。育児に専念するため退職し、現在はライターとしてペットや育児に関する記事を執筆中。

【参照】
厚生労働省|重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について
国立健康危機管理研究機構|重症熱性血小板減少症候群(SFTS)

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