愛猫との暮らし方
2025.05.02
2025.05.02

猫の怖い感染症『猫伝染性腹膜炎(FIP)』とは?新しい治療薬のメリット・デメリットも解説【獣医師監修】

猫伝染性腹膜炎(FIP)は、腸コロナウイルスの突然変異によって発症する感染症です。突然変異を起こす確率は低いものの発症すると進行が早く、かつては有効な治療法がなかったため、致死率の高い、怖い病気とされていました。しかし、近年ではFIPの治療に有効とされる薬が登場し、FIPは治療できる病気に変わりつつあります。

この記事では、FIPとはどんな病気なのか、FIPの発症の仕組みや2つのタイプの症状について、また検査方法や新薬を使った最新の治療法に関する情報を獣医師が解説します。愛猫の「もしも」に備えて、ぜひ最後までお読みください。

目次

FIPとはどんな病気?

はじめに、FIPの基礎知識を学んでいきましょう。原因となるウイルスや発症の経路について解説します。

原因は腸コロナウイルス

FIPの原因となるのは腸コロナウイルスです。このウイルスは猫の生活圏に広く存在しており、多くの猫が本ウイルスに感染し抗体を持っているとされています。もし感染しても、時々軽い下痢を起こす猫がいる程度で、ほとんどの猫は無症状です。

つまり、腸コロナウイルス自体は感染力は強いものの、それほど怖いウイルスではありません。

突然変異が起きるとFIPを発症するが、その確率は低い

しかし、ごく一部の猫の体内で腸コロナウイルスが突然変異を起こすことがあります。すると強い病原性を持つようになり、FIPを発症します。動物病院でも年に数頭はFIPを発症した猫が来院します。

突然変異を起こす原因は、猫の体調や体質、特にアレルギー体質と関係があると考えられていますが、まだすべては解明されていません。

子猫や純血種などの免疫が弱い個体が発症しやすい

FIPはどんな猫でも発症する可能性がありますが、特に1歳以下の子猫やシニア猫、純血種、持病のある猫に多いとされています。純血種の猫は、遺伝子の多様性が少なく雑種と比較して免疫的に弱い傾向にあるため、発症しやすいと言われています。

FIPの症状は2つのタイプに分けられる

FIPの症状は、以下のタイプに大別されます。

  • ウェットタイプ
  • ドライタイプ

全体で見ると、ウェットタイプのほうが6〜7割を占めると言われていますが、両方のタイプが混ざっていることもあります。

ウェットタイプ(滲出型)

腹膜炎や胸膜炎を起こして腹水・胸水が溜まり、貯留量が増えると肺が膨らむことができず呼吸困難を引き起こします。症状の進行が早く、発症から数日〜数週間で死んでしまうこともあります。

ドライタイプ(非滲出型)

神経系や腎臓、肺、肝臓などの内臓に炎症が起こり、しこりが作られて臓器が腫大します。進行はウェットタイプよりはゆっくりですが、半年ほどで多臓器不全や衰弱が進み死んでしまいます。

初期症状は非特異的(特徴がみられない)で診断が難しい

FIPの初期には、どちらのタイプでも以下のような症状が見られます。

  • 発熱
  • 貧血
  • 沈うつ
  • 食欲不振
  • 体重減少
  • 嘔吐や下痢

神経症状や目の症状が出ることも

ドライタイプでは、脳や脊髄に炎症を起こし、以下のような神経症状が現れることもあります。

  • 痙攣
  • 麻痺
  • 眼振(眼球が小刻みに揺れ動く)
  • 歩行時のふらつき

また、目のぶどう膜に炎症が起こり虹彩が赤くなる「レッドアイ」という症状もしばしば見られます。

猫の体調で気になることがあれば、早めに動物病院へ

これらの症状はFIP以外の病気でも起こるので、初期段階でFIPを診断するのは獣医師でも難しいです。もし、飼い主が胸水や腹水の貯留、神経症状などに気づきFIPを疑うときには、FIPが進行している状況と考えてよいでしょう。

動物病院では、さまざまな検査ができますので、FIPかどうかに関わらず、猫に体調不良が見られたときには、動物病院にかかり獣医師に診断を仰ぎましょう。

FIPの検査方法

腸コロナウイルスは健康な猫も含め多くの猫が感染しており、抗体検査だけでFIPを診断することはできません。そのため、複数の検査を実施して、総合的に診断します。

ウェットタイプ:胸水や腹水のPCR検査

ウェットタイプでは、外見や視診で以下のような異常が見られます。

  • 痩せているのにお腹だけがぽっこりと膨らんでいる
  • 腹水が溜まっているときは、お腹を揺らすと波動感がある
  • 呼吸が苦しそう

注射器で胸水や腹水を採取し、PCR検査を行います。PCR検査は、体内にFIPの原因となるウイルスがいるかを調べることができます。PCR検査は非常に正確なので、ウイルスを検出するとFIPとほぼ診断できます。

ドライタイプ:診断が難しいことが多い

ドライタイプは、以下のような検査を行います。

  • エコーやレントゲンで臓器の腫れやしこりの有無を確認
  • しこりがあれば注射針などで細胞を採取してPCR検査
  • 血液を使ったPCR検査(ただし、感度が低くあまり実施しない)

実際は、画像検査を行っても炎症部が小さく判断できないこともあります。また、しこりの原因は腫瘍などFIP以外の病気である可能性もあり、ウェットタイプよりも診断は困難です。

FIPの治療法と新しい治療薬について

FIPは進行が早いため、診断されたらできるだけ早く治療をスタートすることが重要です。これまでの治療は、対症療法やインターフェロン製剤で免疫を高める方法が中心で、FIPの根本的な治療にはなりませんでした。

しかし、近年では研究が進み、以下の薬がFIPに効果があるとわかってきました。

  • GS-441524
  • モルヌピラビル

これらの薬を84日間連続で投与するという治療方法が海外の論文で報告され、それまで治療できない病気だったFIPに対する概念が変わりました。日本でも海外の報告に習った治療を行う病院も出てきています。

しかし、日本でのFIPの治療にはいくつか問題点もあります。

①値段が高い

日本では、これらの薬は現時点では動物用医薬品として承認されておらず、海外からの輸入品に頼っています。そのためすべての動物病院でこの薬を使った治療ができるわけではなく、また薬の投与期間が基本的に84日間と長いことから、GS-441524は100万円前後、モルヌピラビルも30万円前後の治療費がかかります。

②FIPの治療を積極的に行っている病院を探す必要がある

これらの薬はまだ新しいため、長期的な効果や副作用の検討が不十分であるという指摘もあります。FIPの猫への投与も獣医師の判断に任されているため、すべての動物病院でこれらの薬を使った治療を受けられるわけではない点にご注意ください。

③寛解後も経過観察が必要

薬を84日間投与したあと数ヵ月経過観察をして、体調に問題がなければ寛解(かんかい)したと判断します。寛解は完治とは別の状態を表す用語です。

寛解:症状が抑えられていますが、再発の可能性も残っているという状態

完治:病気の原因が治療によって取り除かれ、再発の可能性もほとんどないという状態

海外や日本の論文では、治療によって高い生存率が得られたという症例報告があります。しかし、治療のかいなく死んでしまったケースや、84日間治療を受けたあとに再発したケースも報告されています。

そのため再発の可能性があるため、FIPが完治したとは言わず、継続して定期検診にかかるなど猫の健康管理に務めることが重要です。

FIPは予防できる?

FIPを発症する確率はとても低いですが、愛猫のことを思うと心配になるのは当然です。FIPの原因となる腸コロナウイルスは身近に広く存在するので感染を完全に防ぐのは難しく、有効なワクチンも現在のところありません。

そのため、FIPの予防対策としては、以下の2つが考えられます。

  • ストレスを貯めない
  • 室内飼育で、外部の猫との接触を防ぐ

ストレスを貯めない

ストレスは、体内の免疫機能を低下させます。普段から家の中でよく運動をさせて体力をつけたり、ストレス発散をさせたりして、猫の健康づくりに努めましょう。

室内飼育で、外部の猫との接触を防ぐ

心配な方は、できるだけ猫は屋外には出さず、室内で飼育しましょう。交通事故に遭うリスク、ダニやノミなどの寄生虫に感染するリスク、野良猫との接触で病気がうつされるリスクを抑えることができます。

発症する原因のひとつが、猫の体調も関係していることが考えられていることから、少なくとも体調を崩しているときは外に出すことは控えましょう。

まとめ

この記事では、猫のFIPの基礎知識と、薬を使った新しい治療法について解説しました。

  • FIPは腸コロナウイルスの突然変異で発症する
  • 発症する確率はとても低いが、発症すると進行が早く、死亡率も高い
  • ウェットタイプとドライタイプがあり、診断や治療が難しい
  • 近年は、GS-441524やモヌラピラビルといった新しい治療薬も登場しており、寛解する確率も高い

FIPは正しい知識と早期の対応が大切です。飼い主の皆様の不安な気持ちを少しでも和らげることができれば幸いです。

【執筆・監修】
獣医師:安家 望美
大学卒業後、公務員の獣医師として家畜防疫関連の機関に入職。家畜の健康管理や伝染病の検査などの業務に従事。育児に専念するため退職し、現在はライターとしてペットや育児に関する記事を執筆中。

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