『猫エイズ(猫免疫不全ウイルス感染症)』とは?症状から診断・予防法まで詳しく解説【獣医師監修】

「猫免疫不全ウイルス(FIV)感染症」は、“猫エイズ”とも呼ばれることから「怖い」というイメージが先行しています。たしかに発症すると怖い病気ですが、正しくこの病気を理解すれば、もし抗体検査で陽性と判明しても必要以上に心配することなく今後の対処法がわかります。
この記事では、FIV感染症の感染経路や症状、治療などの基本事項、無症状キャリアと発症猫とは何かなど、FIV感染症について詳しく解説します。最後に、FIV感染がわかったらどう向き合ったらよいかアドバイスを送ります。ぜひ、参考にしてください。
猫免疫不全ウイルス感染症の感染経路

FIVは、血液中のリンパ球やマクロファージなどの免疫細胞に感染して働きを低下させ、さまざまな病気に対する抵抗力を弱くします。
主な感染経路は、噛み傷からの唾液を介した感染
ウイルスは、感染している猫の体液(血液、唾液、精液、乳汁など)に含まれます。主に、猫同士のケンカでできた咬み傷から唾液中のウイルスが侵入して感染します。交尾による感染や、FIVに感染している母猫からの授乳による感染も報告はありますが、主な経路はケンカでの感染と考えてよいでしょう。
ウイルスは体に一生残り続ける
FIVは「レトロウイルス」というグループに属するウイルスです。レトロウイルスは、感染すると生涯体から排除されることはなく感染している状態が続くという特徴があり、これを「持続感染」といいます。
猫免疫不全ウイルス感染症の症状

FIV感染症は、臨床症状により5つのステージに分けられます。
- 急性期
- 無症候キャリア期
- 持続性リンパ節腫大期
- エイズ関連症候群期
- エイズ期
それぞれのステージで見られる症状について詳しく解説します。
急性期(感染後、数週間〜数カ月)
急性期には以下のような症状が出ますが、これらはFIV感染症以外の病気でもみられるため、ほかの病気と区別することはできません。
- 発熱
- リンパ節腫大
- 下痢など
無症候キャリア期(数カ月〜数年)
FIVに感染後約1カ月経つと血液中にFIVに対する抗体が出始め、抗体検査での診断が可能になります。
抗体が作られるようになると急性期の症状は落ち着きます。FIVに感染はしていますが免疫機能がFIVの活動を抑えているため臨床症状は特になく、一見すると健康な猫です。この時期の猫は「無症状キャリア」と呼ばれます。なかには、10年以上無症状の時期が続き、そのまま寿命で亡くなる猫もいます。
持続性リンパ節腫大期
免疫機能が弱くなり、FIVの活動を抑え込めなくなるとFIV感染症を発症します。症状を発症した猫は「発症猫」と呼ばれます。この時期は、全身のリンパ節が腫大しますが、見た目ではよくわからないこともあります。
エイズ関連症候群期
この時期には、全身に以下のようなさまざまな症状が現れます。また、症状が治りにくいのも特徴です。血液検査では、貧血、血小板、白血球の減少が見られます。
- 口内炎や歯肉炎
- 鼻水や咳、くしゃみなどの上部気道炎
- 食欲不振や下痢などの消化器症状
- 皮膚炎
エイズ期
猫は免疫不全に陥り著しい体重減少がみられ、健康な状態ではかからないちょっとした感染症にもかかりやすくなります。最も重篤なエイズ期に入ると長くて3カ月で死亡します。
猫免疫不全ウイルス感染症の診断方法と治療

FIV感染症の診断は、血液を使って抗体検査をおこない、陽性だとFIV感染症に感染していると診断されます。ただし、必ずしも抗体陽性=エイズではありません。FIV感染症を発症し、症状がひどくなった猫のみがエイズと診断されます。
間を空けて2回の抗体検査をおこなうのが望ましい
抗体検査をおこなう必要があるのは、以下のような猫です。
- 飼っている猫に臨床症状があるとき
- 野良猫を拾ってきたとき
- たまたま外に逃げてしまって、しばらくしてから帰ってきたとき
- 外飼いもしくは、室内と屋外を行き来している猫
FIVは感染後抗体ができるまで1〜2カ月程度かかるので、ほかの猫に噛まれてすぐ検査をしても意味はありません。もし1回目の検査で陰性が出たとしても、2カ月程度間を空けて2回目の検査をするのが望ましいです。
治療は症状に対する対症療法をおこなう
FIVをやっつける薬はなく、免疫低下を治す方法も残念ながら確立されていません。よって、FIVの感染症は治すことはできない病気です。
FIV感染症の治療は、猫の症状に合わせて輸液や、ステロイドなどの抗炎症薬、二次感染を防ぐための抗生剤を投与します。
予防方法は室内飼育と、避妊・去勢手術

今までは、無症状キャリアと同居している猫や、屋外に出る猫を対象に、「フェロバック」という不活化ワクチンが使われていました。しかし、2022年1月でメーカーからの販売が終了し、現在国内では本ワクチンは手に入りません。
予防がワクチンに頼れなくなった今、FIVウイルス感染症の予防方法は以下のとおりです。
- 猫は室内で飼育し、屋外には出さない
- 外に出る機会のある猫は避妊・去勢手術を行う
野良猫からの感染に注意
猫の飼育形態は、FIV感染症への感染リスクに大きく影響します。
FIV感染症には、日本の猫の10%程度が感染していると言われます。なかでも、野良猫は飼い猫と比べてFIVの抗体保有率が高く、特にオスは繁殖期にはメスをめぐってケンカをすることもあり、相手が無症状キャリアや発症猫だったらFIVを移されるリスクがとても高いです。
最も有効な予防策は、猫を完全室内飼育することです。もし外に出すのであれば、野良猫との不要な接触を防ぐためにも、避妊・去勢手術をおこなっておきましょう。
猫免疫不全ウイルス症候群Q&A

最後に、FIV感染症についてよく聞かれる疑問点についてお答えします。
人やほかのペットがFIVに感染している猫に噛まれたらうつりますか?
FIVは猫にのみ感染するウイルスです。人や犬などほかの種類のペットが噛まれてもFIV感染症にかかることはありません。
家の猫がFIV陽性だったら、多頭飼いはしないほうがいいですか?
一般的には、猫同士でケンカをしない限り、FIVがうつることはないと言われています。しかし、相性がよくケンカをしない猫同士なら一緒に飼っても絶対安心というわけではありません。頻繁に毛繕いをし合ったり、食器を共有したりすると唾液からFIVがうつる可能性もゼロではありません。
どこまで対策をするかは飼い主様の考え次第ではありますが、無症状キャリア同士もしくはFIV陰性同士で多頭飼いをするほうが安心です。
無症状キャリアがFIV感染症を発症しないためにできることはありますか?
無症状キャリアは、健康な猫に比べると体の免疫機能が弱いです。屋外に出すと野良猫と接触したり、ダニやノミを始めとする感染症を持ち帰ったりする確率が高くなります。必ず室内で飼育するようにしましょう。
ストレスは免疫を低下させるので穏やかに毎日を送ることを心がけ、キャットタワーなどで適度に運動をさせましょう。
必要以上に猫免疫不全ウイルス感染症を怖がらない

実際のところ、FIVは急性感染症ではないため、発症したかどうかという明確な基準はありません。口内炎や歯肉炎は、FIVに感染していなくても年をとれば健康な猫でもよく見られる症状です。
症状が出たときは、その都度ていねいに治療を続けていけば、重篤な全身状態の悪化を起こすことなく生活できている猫はたくさんいます。
室内飼育の猫で重篤なエイズ期まで進行するのはごく少数
FIV感染症自体は治しようがなく、ひどくなると死んでしまう怖い病気です。しかし、室内で育てている猫なら、重篤な症状を起こすまで進行するのはまれですので、必要以上に怖がる必要はありません。
FIV感染症の正しい知識をもった飼い主様に一生懸命大切に育ててもらったなら、それは猫にとって幸せな飼い主にめぐり合えたと言えるのではないでしょうか。
まとめ
FIV感染症の感染経路や症状、治療などの基本事項や、治療方法、疑問点を解説しました。
- FIV感染症は、免疫力の低下を引き起こす感染症。
- 感染経路は、FIVに感染している猫とのケンカでできた傷からの唾液を介した感染が主。
- FIVは持続感染し、薬で排除することもできないので、根治はできない病気。
- エイズ期まで進行すれば長くて3カ月で死亡するが、適切に飼われている猫なら無症状キャリアのまま天寿を全うする猫も多い。
- 治療は対症療法を行う。
正しい知識を持った飼い主様に譲渡されてほしいとの思いから、ピースニャンコの保護猫たちのプロフィールにも抗体検査陽性の猫は必ず記載しています。必要以上にFIVを恐れることなく、猫と楽しい毎日を過ごしましょう。
【執筆・監修】
獣医師:安家 望美
大学卒業後、公務員の獣医師として家畜防疫関連の機関に入職。家畜の健康管理や伝染病の検査などの業務に従事。育児に専念するため退職し、現在はライターとしてペットや育児に関する記事を執筆中。
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