エッセイ
2025.03.12
2025.03.12

「保護猫と歩む、私の新しい一歩」オキエイコさんインタビュー

保護猫の迎え方や保護猫活動の多様さを、飼い主目線で描いたコミックエッセイ『ねこ活はじめました かわいい!愛しい!だから知っておきたい保護猫のトリセツ』の著者・オキエイコさん。

発売から4年が経ち、世の中ではずいぶん「保護猫」が身近な存在になった。オキさんは間違いなく、その立役者のひとり。

自身も2匹の保護猫と暮らすオキさんに、保護猫と暮らす魅力や気付き、これから挑戦したいことなどを伺った。

オキ家の“5人”の子どもたち

オキさん夫妻の家には、5つの小さな命が暮らしている。

小学生のお姉ちゃんと、3歳になる双子の妹ちゃん&弟くん。それから、2020年に迎えた三毛猫の「しらす」と、2021年に迎えた茶白猫の「おこめ」。しらすとおこめは保護猫出身だ。

「だから、うちには子どもが5人いると思っています(笑)」

毎朝オキさんが起きるのは、朝6時。そこから子どもたちと猫たちのお世話をして、お姉ちゃんを小学校に送り出し、双子ちゃんを登園させ、家事を片付けるともう10時だ。

「猫たちは、長女にはすごく懐いているんですが、下のふたりはライバルみたいで。2匹が長女に甘えていると双子たちも寄ってきて、そうなると『違う違う!』という感じで逃げ出すんです(笑)」

2~3歳の幼児といえば、好奇心旺盛で何をしでかすかわからない、目を離せないお年頃。平穏を好む猫が苦手がるのも致し方ない。

「でもふたりが寝ているときは、すぐそばで見守ってくれて。まるで親みたいなんですよ」

そしてその時間は、目が回るような慌ただしい毎日を送るオキさんにとって、一番好きな時間だ。子どもたちが寝息を立て始めると、今度はしらすとおこめが、オキさんの腕の中にやってきて丸くなる。

「長女もそうなんですが、しらすとおこめも『今は甘えちゃいけない時間』という空気を読んでくれているみたいで。そう思わせていることに申し訳なさとありがたさを感じるので、こうやって『私、甘えていいよね』と来てくれる時間が嬉しいんです」

「また来てくれた」と感じたあの日

元々実家でも猫と暮らしていたオキさん。みーこというハチワレの女の子で、すぐ隠れてしまう恥ずかしがり屋。彼女が19歳まで生きてくれたことは、オキさんにとってかけがえのない思い出だ。その思い出が、しらすと出会った瞬間によみがえった。

「あのとき、『あ、もう一度来てくれた!』と思ったんです」

柄の入り方が少し似ているとか、そういう要素もあったかもしれない。だがそれ以上に、しらすの存在自体が、かつての愛猫を思い起こさせた。オキさんは「うちに来る子だ」と確信した。

「実は、私の母は猫を飼うことに賛成ではなかったらしいんです。子どもって、親のそういう気持ちを感じ取るじゃないですか? だから私も、母の前ではみーこをかわいがれなくて……。今、思う存分しらすたちをかわいがれることが、ものすごく幸せです」

しらすとおこめはそういう意味でも、オキさんを癒してくれる大切な存在なのだ。

素人でも役に立てる? 保護猫への先入観

他にも、しらすとおこめがオキさんに与えてくれた幸せは、数えきれないほど。その中でも、保護猫ならではと感じたものがある。

「自分の行動ひとつで幸せになれる猫が、少なくとも1匹いる。それが精神的にすごく大きいというか、許されている感覚があります」

しらすを迎えるまで、オキさんはずっと、保護猫に先入観があった。保護猫は特別なケアが必要で、自分のような素人には到底飼えない存在だと思っていたのだ。知識も経験も豊富な、重い責任を背負える尊い人だけが関われる世界だと。

今では、当たり前の責任感と愛情さえあれば大丈夫と知られてきたが、『ねこ活はじめました』が発刊された2021年は、そういう感覚の人も多かっただろう。

「でも保護猫活動に携わる方々を取材すると、皆さん共通して『最終的に引き取ってくださる里親さんやボランティアさんに支えられている』とおっしゃるんです」

 どんなに行政や保護猫団体が手を尽くしても、最終的に迎えてくれる家庭がなければ、その猫が幸せになれるかはわからない。

「私たちは保護猫活動の本当に末端というか、ただ引き取ることしかできてないと思っていたんですが、必要な場所なんですよと言っていただけた。それを聞いて、ちょっと胸を張ってもいいのかな、と思えたんですよね」

“ずっとのおうち”があってこその、保護猫活動なのだ。

もしもが来たとき、猫たちを守るために

保護猫活動に加えて、近年オキさんが力を入れているのが「もしもヘルプ手帳」シリーズの製作・販売。飼い主が事故や災害で長期間帰宅できなくなったとき、家に残されたペットの孤立を防ぐためのアイテムだ。

「多くの方々が『こういうものが欲しかった』と言ってくださって、社会的にこういうものが必要な時代なんだと感じました。子どもたちであれば学校や園から行政に繋がって、異変に気付いてもらえると思いますが、動物たちはそうはいきませんから」

核家族化が進むばかりか、単身世帯が全体の3割を超える現在。「もし自分に何かあったら、この子たちはどうなるのだろう」というのは、現実的な不安であり、切実な悩みだ。家族で暮らしているオキさんにとっても他人事ではない。

「緊急時のことでいうと、避難を考えるとこれ以上は飼えないな、というのはよく考えます。今の家族構成だと、私と夫が1匹ずつリュックで猫を背負って、子どもたちと手を繋いで、もしかしたら下の子は抱っこかも。そうなると厳しいですよね」

ただ災害時の避難には、いろんなパターンがあるとオキさんは語る。全員で在宅避難するケースもあれば、ペットは自宅に残して通うケースもあるし、避難所に連れて行くケースもある。大事なのは、事前に様々なパターンを知り、想像しておくことだ。

保護猫たちが広げてくれた新しい未来

ということは、いずれ3匹目のお迎えも考えているんですね。そう尋ねると、オキさんは笑顔で夢を教えてくれた。

「夫とよく話しているのは、『預かりボランティアをしてみたいね』って。うちには安定した先住猫が2匹いるので、ここにまだ人間に慣れてない猫ちゃんをお預かりして、新しい家族の方に引き継ぐというボランティア。いつかチャレンジしたいです」

さらにもうひとつ、オキさんは驚くようなチャレンジも教えてくれた。しかもこれは未来の話ではなく、既に一歩踏み出しているチャレンジ。

「実はこの春、大学に入ることにしました。保護猫活動や『もしもヘルプ手帳』を通して、飼い主さんも含めた猫ちゃんたちのケアをする方々が、頑張りすぎている現状を知ったんです」

猫を幸せにして、自分たちも幸せになる

よくあるのが、重度の体調不良なのに「病院に行ったらきっと入院になる。でも猫を置いていけないから」と、受診しないケース。そういうケースを山ほど見て、オキさんは心を痛めてきた。何より、その苦渋の選択によって、猫と飼い主が一緒にいる時間が結果的に短くなってしまうことに。

「そこで支援やサポートがあれば、もっと自分の体を大切にできるし、猫ちゃんたちも救われる。そういうことを考えるうちに、もっと学びたくなって、ITなども使いながら地域の課題解決を考える学部に入ることにしました。1年間受験勉強をしてきたので、今はホッとしているところです(笑)」

動物と暮らすのは、幸せなこと。それなのに、それが理由でQOLを下げざるを得ないという矛盾。そんな現実を少しでも変えたいという想いが、オキさんの原動力なのだろう。しらすとおこめが、それを教えてくれた。

「こんなちっぽけな私だけど、かわいいこの子が幸せに暮らしているのは、私の行動のおかげ。そう思うと、ちょっと落ち込んだときも自分を肯定できるんです。保護猫活動に参加している方の幸福度って、きっと統計を取ったら面白い結果が出るんじゃないでしょうか。猫を幸せにして、自分たちも幸せになる。そういうことについても、飼い主とはまた違った視点から学んでみたいなと思ってます」

※『ねこ活はじめました』 https://www.kadokawa.co.jp/product/322007000193/

※もしもショップ Helmo(「もしもヘルプ手帳」販売サイト) https://helmo.shop/

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取材・執筆 熊倉久枝
編集者、ライター。編集プロダクションを経て、2011年よりフリー。インタビュー記事を中心に、雑誌、WEBメディア、会報誌、パンフレットと多様な媒体の企画編集・ライティングに携わる。ペットメディア歴は、10年以上。演劇、映画、アニメ、教育などのジャンルでも活動。

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