猫の殺処分数はどれくらい?現状と殺処分を減らすための方法を解説

猫の殺処分に関心がある方でも、実際にどれくらいの数なのか最新の情報を知らない方や、減らすための方法はわからない方もいるでしょう。そこでこの記事では、猫の殺処分数に関するデータや殺処分数を減らすためにできることを解説します。ぜひ最後までご覧ください。
猫の殺処分数の現状

最新の猫の殺処分数と統計データのポイントは以下があげられます。
- 過去5年間の猫の殺処分数の推移
- 保護施設の受け入れ能力と殺処分数の関係
- 国際比較で見る日本の猫殺処分数
上記のポイントを押さえれば、猫の殺処分数に関する現状を把握できます。
過去5年間の猫の殺処分数の推移
日本における猫の殺処分数は、近年大幅に減少しています。環境省のデータによれば、2019年度(平成30年度)には約31,000匹が殺処分されていましたが、2023年度(令和4年度)には約9,400匹と、約4年間で約70%の減少を記録しました(*1)。
この傾向は、動物愛護団体や自治体の積極的な取り組み、そして市民の意識向上によるものと考えられます。しかし、未だ多くの猫が新しい飼い主を必要としている現状は変わりません。私たち一人ひとりが適切な飼育と避妊・去勢手術の重要性を理解し、責任ある行動をとることが、さらなる殺処分数の減少につながります。

自治体の保護施設の受け入れ能力と殺処分数の関係
猫の殺処分数は、自治体の保護施設(保健所や動物愛護センター)の受け入れ能力と密接に関連しています。
環境省のデータによれば、2022年度(令和4年度)に全国の自治体が引き取った猫の総数は30,401匹で、そのうち9,472匹が殺処分されました。この数字は収容能力(ケージの数だけではなく動物福祉を担保した保管にかかる予算や人員を含む)が限られていることを示しています。また、収容される猫の多くが幼齢個体(離乳前の子猫)であり、哺育が難しいケースも多いと報告されています。
猫や犬の殺処分方法
日本で猫や犬を殺処分する方法として一般的なのは、二酸化炭素ガスによる窒息死です。環境省から「苦痛を与えない方法によるよう努めること」が求められていますが、収容頭数が収容能力を大きく上回る自治体では、「ドリームボックス」と呼ばれる狭いガス室に殺処分にする猫や犬を詰め込み、二酸化ガスを注入して窒息死させています。近年では、ドリームボックスがない動物愛護センターがつくられ、薬剤の投与による致死処分も増えていますが、それが必ずしも安楽死とは言い切れないのが実態です。
猫の殺処分を減らすための方法

殺処分数を減らすために、以下の取り組みがあります。
- 繁殖制限(地域猫活動)
- 里親募集イベントの開催
- 保護施設での譲渡率向上施策
- 企業と連携した支援プログラム
それぞれ詳しくみていきましょう。
繁殖制限(地域猫活動)
地域猫活動は、地域全体で野良猫の問題を解決し、猫の殺処分を減らす効果的な方法です。この活動では、地域住民が協力して野良猫に避妊・去勢手術を施し、適切な管理を行います。
例えば、東京都練馬区では「飼い主のいない猫対策」を導入し、地域住民とボランティア、行政の三者が協力し、人と猫が共生する地域づくりを目指しています。このような取り組みにより、飼い主のいない猫を繁殖させないことで地域にいる猫の数が増えず、結果として殺処分数が減少しています。
地域猫活動は、人間と猫が共生する社会の実現に寄与するだけでなく、地域コミュニティの活性化にもつながります。
里親募集イベントの開催
里親募集イベントは、猫の殺処分を減らすための効果的な手段です。これらのイベントでは、保護された猫と新たな飼い主を直接結びつける場を提供します。
例えば、動物愛護団体が主催する譲渡会では、猫の性格や健康状態を直接確認でき、飼い主との適切なマッチングが可能です。このような取り組みにより、保護猫の新しい家族が見つかりやすくなります。
熊本地震以降、県内の保護団体が複数参加するイベントを企画・運営している「ジョートフル熊本」は、気軽に参加できる楽しい譲渡会を定期的に開催し、多くの猫に新しい家族に譲渡しています。
保護施設での譲渡率向上施策
保護施設での譲渡率向上は、猫の殺処分を減らすために重要な施策です。具体的には、施設内の猫の健康管理や社会化を徹底し、潜在的な里親に安心感を提供することが効果的です。
また、施設のウェブサイトやSNSを活用して、猫の写真や性格、健康状態などの情報を積極的に発信することで、里親希望者の関心を引きやすくなります。さらに、譲渡会の開催や地域の動物愛護団体との連携を強化することで、譲渡の機会を増やすことが可能です。環境省のデータによれば、自治体からの犬・猫の返還・譲渡率は年々増加しており、2022年度では76%に達しています。
企業と連携した支援プログラム
企業と連携した支援プログラムは、猫の殺処分を減らすための効果的な方法です。例えば、キャットフードを製造・販売しているネスレ日本株式会社は、「ネコのバス」を制作し、猫カフェのような譲渡会を開催することで、保護猫の譲渡促進に取り組んでいます。ほかにもさまざまな企業で利益の一部を動物保護活動に還元する等のモデルも存在します。
参照:ネスレ日本|ピュリナの社会貢献活動
猫の避妊・去勢手術の効果と必要性

避妊や去勢の手術を猫におこなう効果と必要性には、以下のポイントがあげられます。
- 避妊・去勢手術が殺処分減少に与える影響
- 手術の健康・行動面への効果
- 手術を行うタイミング
- 避妊・去勢手術を推進するための課題
上記のポイントを把握していると、猫のための避妊・去勢手術をおこないやすくなるでしょう。
避妊・去勢手術が殺処分減少に与える影響
避妊・去勢手術は、猫の殺処分数を減少させる効果的な手段です。繁殖力の高い猫は、適切な管理がなければ短期間で個体数が増加し、その結果、多くの猫が保健所に収容され、殺処分の対象となります。
しかし、地域猫活動として避妊・去勢手術を推進することで、猫の繁殖を抑制し、結果的に殺処分数の減少が期待できます。
多くの自治体では、飼い主のいない猫に対する避妊・去勢手術に助成金を出す制度があり、地域に飼い主のいない猫を増やさないために取り組んでいます。このように、避妊・去勢手術は猫の過剰な繁殖を防ぎ、殺処分数の減少に直接的な効果をもたらします。
参照:環境省|引取り数削減に向けたその他の取組
手術の健康・行動面への効果
避妊・去勢手術は、猫の健康と行動に多くの利点をもたらします。まず、メス猫においては、初回の発情前に避妊手術を行うことで、乳腺腫瘍の発症率を大幅に低下させることが確認されています。
また、去勢手術を受けたオス猫は、尿路閉塞のリスクが増加しないことが示されています。さらに、避妊・去勢手術を受けた猫は、発情によるストレスやマーキング行動が軽減され、飼い主との生活がより快適になるでしょう。
これらの理由から、避妊・去勢手術は猫の健康と行動面での改善に寄与し、飼い主と猫の生活の質を向上させる重要な手段であるといえるでしょう。
手術をおこなうタイミング
猫の避妊・去勢手術は、一般的に生後6ヵ月前後が適切なタイミングとされていますが、最近は、初回発情前の生後6~16週に早期避妊・去勢手術をおこなう獣医師も増えています。
ただし、手術の適切なタイミングは猫の健康状態や体調によっても変わるため、獣医師と相談の上、最適な時期を決定することが重要です。また、自治体によっては不妊・去勢手術の助成金制度がある場合もあるため、事前に確認してみるとよいでしょう。
避妊・去勢手術を推進するための課題
避妊・去勢手術の推進には、いくつかの課題が存在します。まず、飼い主の認識不足が挙げられます。ペットフード協会の調査によれば、飼育している猫への不妊・去勢手術は約8割にとどまっています。
参照:一般社団法人ペットフード協会|猫 飼育・給餌実態と支出
また、手術に対する誤解も課題です。一部の飼い主は、手術が猫の健康に悪影響を与えると考えています。さらに、手術費用の負担も問題です。特に飼い主のいない猫への手術は、費用確保が難しい場合があります。
これらの課題を解決するためには、飼い主への啓発活動や手術費用の助成制度の充実が必要です。
例えば、福岡県福岡市では不妊去勢手術の推進モデル事業を実施し、協議会を設立して手術支援をおこなっています。
参照:福岡市|福岡市飼い主のいない猫等の不妊去勢手術推進事業について
社会問題としての殺処分への取り組み

社会問題としての殺処分への取り組みには、以下があげられます。
- 教育の場での啓発活動
- 行政と民間団体の共同プロジェクト
- 一般市民が参加できるボランティア活動
これらの取り組みが活発におこなわれることが、猫の殺処分の減少につながります。
教育の場での啓発活動
殺処分の問題は、単なる動物福祉にとどまらず、社会全体の課題です。そのため、教育現場での啓発活動が重要視されています。
例えば、学校での動物愛護教育が進むことで、学生たちは命の大切さや責任感を学ぶことができます。実際、環境省の調査によると、動物愛護に関する教育がおこなわれた学校では、飼い主の意識が向上し、ペットの適正飼育や避妊・去勢手術の重要性への認知が広がっています。こうした活動は、将来的に殺処分ゼロを目指すための基盤づくりに貢献しています。
行政と民間団体の共同プロジェクト
行政と民間団体が連携して進める殺処分削減の取り組みは、効果的な解決策の一つです。
例えば、自治体と動物愛護団体が共同で実施する地域猫活動や、避妊・去勢手術の普及活動等があげられます。このような取り組みによって猫の過剰繁殖を防ぎ、ひいては殺処分数の削減にもつながっていきます。
一般市民が参加できるボランティア活動
一般市民が参加できるボランティア活動は、殺処分削減において重要な役割を果たしています。
例えば、猫の避妊・去勢手術をサポートするボランティアや、地域猫活動に参加することがあげられます。特に、地域猫活動は、避妊・去勢手術を済ませた猫を地域で飼うことで繁殖を防ぎ、殺処分数を減らすことができます。
また、捕獲した時点で病気が見つかる、長毛腫である、幼齢など地域猫として生きていくことが難しい場合は、その猫を自宅で一時的に預かり、新しい飼い主を探すこともボランティアには求められます。
こうした活動が広まることは、動物愛護に対する市民の理解を深め、社会全体で問題解決に向けた意識を高める効果もあります。
猫の殺処分は解決していくべき課題
今回は、猫の殺処分について解説しました。
自治体の保護施設は収容可能頭数が限られているため、殺処分は社会的に仕方のない側面もありますが、動物愛護の観点からなくしていきたいと考える人が増えています。その結果、殺処分される猫の数は減少傾向にあるとはいえ、まだまだ殺処分されている猫が存在します。
殺処分をなくすために個人ができることは、今後猫を家族に迎え入れる際は保護猫を検討すること、地域猫活動などにボランティアとして参加すること、そしてNPO法人をはじめとした組織への寄付でその活動に協力するなどがあげられます。この記事を参考にぜひ、猫の保護活動について考えてみてください。
【関連記事】『野良猫』の保護はどこに依頼するべき?相談できる団体と注意点を解説」
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