「いつも通りに、猫と生きる」保護猫団体「ゆらり」代表・山岡りえさんインタビュー
いよいよスタートした保護猫支援プロジェクト「ピースニャンコ」。活動の主軸のひとつは、連携している保護猫ボランティアへの医療費支援だ。
猫のためにともに活動する仲間たちという想いを込めて、ピースニャンコでは彼らを「チームメンバー」と呼んでいる。そのひとりが、一般社団法人「ゆらり」の代表を務める山岡りえさんだ。
保護猫にかかる医療費の現実

長年個人で活動していた山岡りえさんが2019年に立ち上げた「ゆらり」は、東京都東久留米市を拠点とする保護猫団体。猫の新たな家族を探すと同時に、高齢猫や持病のある猫の終生保護も行っている。
現在保護している約50匹のうち、家族を待つ猫たちはシェルターや一時預かりボランティアの元で暮らし、山岡さんの自宅にはケアが必要な猫や終生保護の猫たちが暮らしている。その数は常時20匹前後。病気やケガの治療、定期的な通院や投薬が必要な猫ばかりだ。
「年間で猫たちにかかる医療費は100~150万円。病状によって必要な医療費は変わるので、すごく病状が悪い子がいれば、その子1匹に数十万かかってしまうこともあります」
2023年度の医療費の総額は約147万円。これは「ゆらり」の支出の約35%を占め、寄付だけでは足りず、山岡さん自身の資金で補っているのが現状だ。
「でも金銭的なことは、頑張れば何とかなりますから! 今はありがたいことに、ご支援いただく方法も色々あります」
例えばそのひとつがクラウドファンディング。「ゆらり」も現在、初めてチャレンジしているところだ。(https://readyfor.jp/projects/yuraricat2025)
「私たちみたいに小さな団体では、寄付を集めるといっても大きな額は難しいので、運営を続けることは、本当に大変です。今回、ピースニャンコさんが、医療費を支える仕組みを作って下さったのは、嬉しいです。何より安心感が違いますよね。『何かあったら相談しよう』と思えることは、本当に心強いです」
外で生きる猫たちが歳をとったとき

宮崎で生まれ育ち、幼い頃から猫を飼っていた山岡さん。しかし意外なことに、当時飼っていた猫たちとの思い出は、あまり幸せな記憶ではないという。
「昔の田舎だったので、飼い猫と言っても自由に家を出入りしていて、交通事故に遭って死んでしまったり、生まれた子猫がいなくなったり。野良猫も多くて、亡くなった猫が道端でいつまでもそのままだったりして…。そういうことが身近だったので、何とかならないのかな、何かしてあげられないのかなとずっと思ってました」
やがて大人になった山岡さんは、友人が拾った猫を飼い始めたことをきっかけに、TNR活動を開始。しかし数年後、TNRした猫たちが高齢化して病気になる様子を見て、いよいよ自宅で保護することを決意する。
年老いた猫たちを自宅に連れて帰り、病院に連れて行き、出来る限りの治療を行い、最後までお世話をして看取るようになった山岡さん。その金銭的・肉体的・精神的負担が重いことは、想像に難くない。
猫と仲間に支えられながら

それでも保護猫活動を続けてこれたのは、何故だろう。
「それはやっぱり、猫がいるから。猫たちが元気になる姿には励まされますし、一緒に活動してきた仲間の存在も大きいです。特に、最初にTNRを教えてくれた保護猫団体の当時の代表さんと、一緒に『ゆらり』を立ち上げた理事。私にとってふたりは心の支えで、ふたりがいたから活動を続けてこれました」
しかしそのふたりは数年前に他界。様々な困難を乗り越えてきた山岡さんも、さすがにそのときは精神的につらかったと話す。
「でも、他にも支えてくれる人たちがいたから、続けてこれました。ピースニャンコさんも既に、その支えになってくれてます! 自分だけじゃない、同じところを目指して走っている人がいると思うだけで、すごく心強いんです」
言われるのは「大変そう」ではなく「楽しそう」

山岡さんは猫に関する困りごとの話を聞くと、人づてに聞いた話であっても一度訪ねてみる。人と人がつながることで、1匹の猫を助けられることがある、と身をもって知っているからだ。
「実際は困っていなければそれでいいし、困っていれば相談に乗れます。数年後に相談が来ることもあるし、どこかで繋がっていれば助けられる命がひとつ増えますよね。それに、せっかく出会ったのだから、適度な距離感で寄り添いあいたいなって」
生活の8割は猫のことで埋まっていて、仕事はその隙間でやってると笑う山岡さん。さぞ周囲は彼女のタフさに驚いているだろうと思いきや、意外な言葉が返ってきた。
「周りからはよく『楽しそうだよね』と言われます。あとは『いつも誰かの家に行ってるね』って(笑)。でも元々はこうじゃなかったんですよ。猫を通していろんな人に出会って、助けられて、人も好きだなと思えるようになった。だから保護猫活動をしてなかったら、人嫌いだったかもしれません」
いつだって猫が望むのは、いつもの日常

もうひとつ、保護猫活動を通して山岡さんが変わったことがある。猫たちの様子から、死期が近いことを感じ取れるようになってきたのだ。
「だからといって、やることは変わりません。猫はいつも通りが好きなので。大体みんな、いつも寝てる場所で亡くなるんですよ。だからお見送りのときは、特別なことはせず、なるべくいつものまま。入院していても連れて帰って、最後は自宅で看取ると決めています」
命を見送るというとき、いつも通りにふるまうには、どれほどの胆力や経験が必要だろう。その強さに感嘆する私たちに、山岡さんは柔らかな笑顔で続けた。
「私がお世話になった代表さんも理事も、すごくいい最期だったと思います。理事は体の上に猫を乗せたまま眠るように亡くなったし、代表さんも亡くなる数時間まで私と普段通りすごしていました。ふたりとも日常の中で、動物に囲まれて人生を終えたので、私もそうしたいんです」
家族が立てる生活の音や話し声を聞きながら、うつらうつらとまどろむ心地良さ。確かに、そんな中で命を終えられたら、どんなに素敵だろう。
「だから、猫にもそうしてあげたいんですよね」
高齢者と猫が最後まで一緒に暮らせたら

猫も人も大切にしている山岡さんには、ひとつの夢がある。まだ具体的に動いているわけではないが、いつか実現できたらと思っている。
「高齢の方が亡くなったとき、飼っている猫が取り残されてしまうケースがあるんです。犬ならお散歩するので、周囲との交流があるのですが…。高齢の方から猫を取り上げたいわけではないし、猫にとっても住み慣れた家で一緒に暮らした家族と最後まで過ごせるのが一番。行政と連携して、それを見守れるような仕組みを作れたらいいのにな、と思ってます」
最近は、成人した子や親族が後見人になり、高齢の飼い主に万一のことが起きた場合は、後見人が猫を引き取るという形も広まってきた。しかし、予想より早くそのタイミングが訪れてしまい、「いずれは引き取るつもりだったけど、今すぐは難しい」ということも。
「そういう場合も何かしらサポートできる仕組みがあるといいなと。行政と連携するとなるといろいろ難しいとは思うのですが、何かできたらなと思ってます。猫にとっては『いつも通り』が一番ですから、それを守ってあげたいんですよね」
そして最後に、山岡さんはピースニャンコへの期待を、熱く語ってくれた。
「ピースニャンコは、ピースウィンズ・ジャパンという大きな組織が運営母体ですから、圧倒的に存在感がありますよね。きっと保護猫の現状についての発信力や、影響力も大きいと思うんです。医療のサポートも譲渡のサポートも、私たちとは違う形で実現していく力をお持ちだと思うので、本当に期待してます!」

一般社団法人ゆらり代表理事
山岡りえ
20年ほど前、近所のゴミ回収ボックス横で米粒を食べているガリガリの猫を見かけたのをきっかけにTNR活動を始め、病気や怪我をしている猫を中心に保護。行き場のない子たちの看取りのための終の住処となる場所を作りました。現在、状態の悪い子の保護をメインの活動にしながら、譲渡も行っています。
【活動への思い】
小さな命に寄り添い、幸せな最後を迎えられるように、その子にとって一番いい選択ができるよう、精一杯活動しています。世界中の動物たちが幸せな一生を過ごせるよう願っています。
取材・執筆 熊倉久枝
編集者、ライター。編集プロダクションを経て、2011年よりフリー。インタビュー記事を中心に、雑誌、WEBメディア、会報誌、パンフレットと多様な媒体の企画編集・ライティングに携わる。ペットメディア歴は、10年以上。演劇、映画、アニメ、教育などのジャンルでも活動。
▼山岡さんの活動の様子は動画でもご覧いただけます
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