エッセイ
2026.02.06
2026.02.06

保護猫活動の現場から—一般社団法人リアン 理事 鶴 ゆきこさん インタビュー

2025年末、YouTubeチャンネル「ピースニャンコテレビ」で、ある多頭飼育崩壊の現場を映した動画が公開された。

記録されていたのは、主に福岡県筑後市で保護猫活動を行う「一般社団法人リアン」のレスキュー現場。まるで廃屋のような空き家にはボロボロの家具や寝具が散乱し、部屋中が糞尿まみれ。飼い主が暮らす自宅も天井が落ち、空が見える場所があるほど。その2軒で暮らしていた猫は、なんと合計74頭。驚くべき数字だ。

そのうち10頭を保護し、64頭のTNR(Trap捕獲・Neuter不妊手術・Return戻す)を行った「リアン」理事の鶴ゆきこさんに、多頭飼育崩壊の現実を聞いた。

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多頭飼育崩壊は、誰にでも起こりうる

「私、気持ちわかります」

思いがけない言葉と、彼女の真剣な眼差しに、息をのんだ。リアンの鶴さんから話を聞き始めて、30分ほど経った頃のことだ。投げ掛けた質問は

「多頭飼育崩壊を起こしてしまった飼い主さんを、どう思われますか?」

「助けたい、お腹を満たしてあげたい、寒くないようにしてあげたいっていう気持ち。ただ、それに知識とお金が伴っていなかった」

飼い主への憤りもなく、上から導くような傲慢さもなく、正しいことを言っているという力みすらない、ただただフラットで静かな表情。いったいどうして、多頭飼育崩壊を起こしてしまうのだろう? それまで抱いていたそんな疑問が、誤りだと気づいた瞬間だった。

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誰も多頭飼育崩壊なんて、起こしたいわけじゃない。当たり前のことだ。

「多頭飼育崩壊は虐待ですが、虐待したくてしているんじゃなくて、優しさからそうなってしまった方がほとんどなので、ずっと負い目を感じているんですよね。『責められる』『文句を言われる』『悪いことをしている』という罪悪感に、常に囚われている。だからとにかく、安心して相談できることが必要だし、早めに相談しようと思える社会にしていかないといけないんです。そうじゃないと、人も猫も救えないから」

“助けて”と言えなかった人たち

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40年前はたった1頭だった、今回の多頭飼育崩壊現場。頭数が徐々に増えるうちに、避妊去勢手術が追いつかなくなり、さらに5年前に空き家に猫を移したことで、74頭にまで膨れ上がってしまった。それも“生き残った猫だけ”で。

これはレアケースであってほしい……と思ってしまうが、鶴さんは淡々と「規模は違えど、珍しいことではない」と言う。

「今回は頭数が多かったですが、10~30頭の多頭飼育崩壊であれば、私たちの町でも毎年起こっています。ということは、潜在的にはすごい数の多頭飼育崩壊が眠っているはずなんです。困っているのに相談できずにいる方が。

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今回の飼い主さんも、数か月前にリアンのスタッフが、偶然リーフレットを渡していた方でした。ホームセンターで大量のフードを飼っている方を見掛けて、『お困りじゃないですか? お困りだったら連絡をください、私たちは味方ですよ』って」

それでも、自分が飼い始めたのだから人には頼れないと相談せずにいたが、警察の立ち入り検査を受けて、思い切ってリアンに電話をしたのだという。警察から保健所に連絡が行く、保健所が来たら猫たちが殺されてしまう……。

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「今回はご本人からの連絡でしたが、結局は行政が入って、そこから私たちに相談が来ることが多いです。でももっと早く相談していただければ、もっと安心して相談できる窓口だと思っていただければ、死ななくて済んだ子たちもたくさんいただろうって、いつも思います」

多頭飼育崩壊は、後ろめたさから抱え込んでしまうケースがほとんど。だからこそリアンでは、相談してくれた人の心が折れないように支え、SNSなどの発信でも「相談しやすいと思ってもらうこと」を一番に心掛けている。

血だらけの家に帰るのが、怖かった

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基本的には県南部である筑後市を中心に活動しているリアンだが、緊急性が高く難しい相談の場合は、遠方でも乗り出すことがある。その中で鶴さんが強く印象に残っているのは、県東部で起きた多頭飼育崩壊だ。飼い主は海外から来日したがDVを受けて逃げ出し、生活苦に陥って生活保護を受けていた女性。家族が置いていった猫が増えてしまい、1年以上も行政に相談しているのに、解決に繋がらないまま困っていた。

猫たちが発情期と出産を迎えた家は、女性が帰宅すると、部屋中が血だらけになっていることもあったという。発情した雄猫は、生まれたばかりの子猫たちを噛み殺してしまうのだ。「もうどうしたらいいのかわからない、家に帰るのが怖い」。その電話を受けた鶴さんは、電話を切ってすぐに車にありったけのフードを積んで、片道3時間かけて駆け付けた。

「電話もらったのが夜8時頃で、着いたのが11時くらい。もう出産しそうな子が2頭いたので、その子たちはその日連れて帰りました。それからすぐ手術車のある病院に依頼して、現地のボランティアさんを見つけて協力していただいて、2週間で全頭手術。さすがにこれは遠かったのでレアケースですが、あまりにもかわいそうだったり、すぐ行かないと精神的に危険だなという場合は、行ける限り行きます」

実際、この女性は別れ際に鶴さんに抱きついて、子どものように泣きじゃくったという。「誰も今まで助けてくれなかった」と。行政はもちろん複数の保護猫団体に電話もしたが、どこも対応することが難しく、遠方のリアンにまで助けを求めたのだ。

その現場はその後、頭数も落ち着き、女性の生活も安定している。

人の役に立ちたい、ただそれだけで

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鶴さんは意外な2足の草鞋を履いている。ひとつは保護猫活動家。そしてもうひとつが、政治家だ。

彼女の本業は筑後市議会議員。初立候補でトップ当選を果たし、現在は2期目を務めている。20代の頃は政治に興味がなく、選挙も行ったり行かなかったり。しかし2016年の熊本地震で筑後市が支援拠点になり、ボランティア活動に従事。その後も地元消防団の団員を務めながら、困っている人に野菜を届けたりと地域のために活動していたら、周囲から「普段から人のために行動してるなら、政治家になって給料もらいなよ」と言われたのだ。

「やっぱりありがとうって言われると気持ちがいいし、人の役に立ってる実感が湧くじゃないですか。そのためにやってるようなものだったんですが(笑)、そこから『議員になったら、世の中を少しでも良くしていけるかも』と興味を持って立候補しました」

そして議員になって出会ったのが、保護猫活動の世界だった。

個人で保護猫活動をしている人々から、過剰繁殖している猫がいると相談を受けて、動き始めたのが始まり。地域猫にするにはその地域の人々の理解が必要だが、呼びかけに行った先では取り付く島もなく、「保護できないなら殺せ」と言われた。

「『えっ?』ってなりましたよね。とにかくすぐ保護しないと殺されると思って、使えるトレーラーを急遽片付けて、そこにいた13頭を保護したんです。それからこのリアンシェルターが始まりました。『不妊手術、めちゃくちゃ大事じゃん!』ということを知って、令和2年に仲間たちとこの団体を設立して、この5年間で猫問題の現実を知って。年々相談も増えていて、議員もこちらも片手間じゃできないことだけど、やめるわけにはいかないですね」

守れる場所をつくるために

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熊本地震を経験した鶴さんには夢がある。ひとつは、リアンを、災害時に猫を支援できる大きな組織に育てることだ。

ピースニャンコが誕生するきっかけにもなった、2024年能登半島地震。当時は遠く離れた九州のリアンにまで、「避難所に猫を連れていけない」という悲痛な相談が寄せられた。ではもし、自分たちが暮らす地域で、大災害が起きたら? そのときに猫や飼い主たちを助けられる組織にしていきたいというのが、鶴さんの夢だ。

「その前に、今はまだご寄付に頼らないと難しい団体運営を、自走していけるようにしたいです。第一種動物取扱業者の登録をして、今後ますます増えるであろう高齢者からの引き取りを受け入れられるような、大きな施設を作りたい。今はボランティアで協力してくれている仲間たちも、パートタイムでもいいからちゃんと雇用して、生活の心配をせずに思いっきり猫を助けられる仕組みにしたい。そうして、ここを九州最大の動物支援センターみたいな場所にしていきたいですね。そうだ、ピースニャンコさん、ここに大きなシェルターを建てて私たちを雇ってくれませんか?(笑)」

そう言って、茶目っ気たっぷりに笑う鶴さん。壮大な夢に聞こえるが、確かにそういう場所が必要だと、私たちは知っている。

日本が災害大国であることも、これからますます高齢者が増えていくことも、そして人が孤立しやすい時代であることも――小さな命が人間社会のしわ寄せを受ける理由は、もう十分すぎるほど揃っているのだから。

 

■鶴ゆきこさんの多党飼育崩壊の現場に密着した動画はこちら

 

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取材・執筆 熊倉久枝
編集者、ライター。編集プロダクションを経て、2011年よりフリー。インタビュー記事を中心に、雑誌、WEBメディア、会報誌、パンフレットと多様な媒体の企画編集・ライティングに携わる。ペットメディア歴は、10年以上。演劇、映画、アニメ、教育などのジャンルでも活動。

 

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