大人同士だから無理がない。シニア猫と始める、穏やかな暮らし
通勤があるので、毎日お留守番になる。家族が高齢で、あまり活発すぎると心配。猫と遊ぶより、のんびりした時間を共にしたい――。そんな人に選択肢のひとつとして知ってほしいのが“シニア猫”。そこで今回は、推定10歳の茶トラの男の子「チャーちゃん」を迎えた、50代ひとり暮らしの斉藤さんにインタビュー。シニア猫を迎えた理由や、その日々の喜びを語ってもらった。
少しでも早く、1匹でも多く、猫を幸せに

「猫って“いるだけ”でかわいいですし、それは何歳の猫でも変わらない。シニアだからどうこうと考えたことがないので、今日は本当に私でいいのかなって思っているんです(笑)」
シニア猫との暮らしとその魅力を尋ねる質問に、苦笑いを浮かべてそう答えた斉藤さん。その膝の上では茶トラの男の子・チャーちゃんが寛いでいる。
チャーちゃんが斉藤家にやってきたのは、半年前。斉藤さんはその少し前、「りんちゃん」という21歳のおばあちゃん猫を看取っていた。30代で迎えたりんちゃんだけでなく、学生時代にも猫を飼っていた斉藤さんは、ずっといた存在がいない寂しさに襲われたという。
「一緒に暮らしていた母も2年前に亡くしているので、みんなひとりずついなくなるな、寂しいなと。りんちゃんに悪い気もしましたが、せっかくなら少しでも早く、1匹でも多く猫を幸せにしたほうがいいという想いもあって、新しく迎えることにしました」
生きものとして、愛おしい

先代猫のりんちゃんはずっと元気なおばあちゃんだったが、さすがに最後の数年は朝晩に薬を飲ませたり、シリンジでご飯を食べさせたりと、介護が必要な状態になった。だんだん体も痩せていき、目も見えなくなり、耳も聞こえなくなり……大変さはあったがそれでも愛おしかったと、斉藤さんは柔らかい表情を浮かべて語る。
「何でしょうね。“生きものとして愛おしい”と言うんでしょうか。『おばあちゃんだね~、かわいいね~』って。だんだん細くなっていって、それも愛おしい。大事にしないとねって感じですよね。子猫の頃は肩にも乗ったりしてかわいかったですけど、おばあちゃんになった姿もかわいかったですね、本当に」
高齢になっても比較的しっかり食事をとれていたというりんちゃん。食が細くなったシニアの子に食べさせるための工夫はいろいろあるが、りんちゃんはフードクラッシャーで小さくする程度で済んだという。トイレも、最後の頃はどこでしてもいいように部屋中にトイレシートを敷き詰めていたが、それもほんの数か月間だった。
70代での“老々介護”を考えて

自分の手でできることを、ひとつずつ。それでもやはり、介護生活は大変だったという。「通院が頻回」「お世話の手間が増える」といった、物理的な大変さではない。
「労力が大変というよりも、気持ちがつらい。ひとりでお留守番してもらって、仕事が終わったら『生きてるかしら』と思いながら飛んで帰って、こたつをめくって姿を確認して『良かった、生きてる』。その毎日が大変でした」
りんちゃんは知人からもらい受けて子猫から育てたが、斉藤さんは今回、最初からシニア猫を迎えようと考えていた。理由は、自分の年齢だ。斉藤さんは今、50代後半。りんちゃんが21歳まで生きたことを考えると、今から子猫を飼うのはためらわれた。猫を愛する人ほど、最後まで責任を持てるかを真剣に考える。斉藤さんもそのひとりだ。
「今から子猫を迎えたら、70代で“老々介護”ですからね。りんちゃんの経験から最後は大変になるとわかっているので、子猫はやめておこうと思ったんです。それに子猫は貰い手が多いという話も聞いていたので、じゃあシニアの猫をお迎えしようかなと。
そもそも21歳と暮らしていましたから、私にとっては10歳なんてまだまだピチピチ(笑)。これから10年もあるよねって感覚なんです」
自分の手でできることを、ひとつずつ

できる範囲で、目の前の猫を助けたい。斉藤さんの言葉の端々には、そんな想いが滲む。
以前から、近くにいる地域猫たちへのエサやりなどを行っていた斉藤さん。TNRのために捕獲器を借りたり、子猫を保護したときにお世話をお願いしたりと、近くの保護猫団体と親しくいた。そこに譲渡の相談をしたところ、ピースニャンコのチームメンバーである保護猫団体「ゆらり」を紹介されたのだという。
ちょうど職場にも猫を飼いたいという人がいたので、ふたりは「ゆらり」の山岡さんに連絡を取り、シェルターで保護猫たちと“お見合い”をすることに。そのときに山岡さんが「こんな子もいますよ」と連れてきてくれたのが、チャーちゃんだった。
「他にも何匹か会わせてもらったんですが、どの子もかわいいね、みんなかわいいね、困っちゃうねって。もうちょっと家が大きくて、経済力もあったら、2匹でも3匹でもお迎えできるんですけど。私は女ひとりで経済力もないし、昼間もお留守番になっちゃうので、1匹ずつ幸せにしていこうかって」
そうして斉藤さんは、10歳のチャーちゃんを。一緒に行った知人は12歳の子をお迎えして、今、幸せに暮らしている。
「この飼い主、俺の!」甘えられる喜び

お見合いがうまくいったら、今度は自宅で一緒に暮らしてみる“トライアル”。その猫の性格や状況によってトライアル期間はまちまちだが、斉藤さんとチャーちゃんの場合は1週間もかからずに正式譲渡と相成った。というのも、猫は警戒心が強い生きものと言われているのに、チャーちゃんは初日から斉藤さんにべったりだったのだ。
「初日から寛ぎっぷりがすごくて、私にもべったりで『この飼い主、俺の!』みたいな。夜、寝ようとしたらベッドに乗ってきて、腕枕で寝始めたんですよ。りんちゃんでさえそれはやらなかったので、逆に私のほうが戸惑ってしまって(笑)。甘えなくても猫はかわいいんだけど、やっぱり甘えてくれると、それはそれでかわいいですよね」
あまりに甘えん坊なので留守番させて大丈夫かと心配になるほど、初日から斉藤さんに心を許していたチャーちゃん。シェルターではマーキングもしていたのに斉藤家ではまったくしなくなり、これには山岡さんも驚いた。やはり“自分の家”ということを理解して、安心しているのかもしれない。
シニア猫だからと気負わなくて大丈夫

10歳のチャーちゃんはまだまだ元気。シニア猫といっても、健康に気をつけていれば5年10年と一緒に暮らしていけるのだから、気負うことなくお迎えしてほしいと斉藤さんは語る。
「繰り返しになりますけど、シニア猫には子猫とはまた違ったかわいさがありますから。それにチャーは、子猫と違って昼間はお昼寝をしていることがほとんどなので、お留守番の多い今の私の生活には合ってるんです」
日中はひとり時間を満喫している大人猫のチャーちゃんだが、夜はガラッと違う顔に。猛暑だった夏場も毎晩欠かさず、ずっと斉藤さんの腕枕で寝ているのだ。斉藤さんがベッドに入って掛布団を持ち上げると、そこにチャーちゃんが入ってきて、横向きになった顔のすぐ前にゴロリ。眠りにつくまでと目覚めのひとときは、1日の中でもっとも幸せを感じる時間だ。
「最近は寒くなったので、毎朝『寒いね、起きたくないね。でも起きるか~!』なんて話しながら起きてます。私が起きると彼も起きてきて、伸びをして。私が起きたら起きるものだと思ってるみたい」
悔いのないように、ふたりで生きていく

まだ一緒に暮らし始めてたった半年とは思えないくらい、仲の良いチャーちゃんと斉藤さん。猫にとって“ずっとのおうち”がどれだけ幸せなものかが、よくわかる。これからさらに年を重ねて、家族の歴史がどんどん作られていく予定。その歴史に、どんな絵を描いていきたいですか?
「平凡ですが、とにかくチャーがこのまま健康でいてくれるのが一番。そのためには私も健康じゃないといけないし、お金も稼がないといけないので、健康で生活していけたらいいなと思います。そして、長生きしてくれたら嬉しいなって。いずれは“そのとき”が来ますが、そのときになるべく悔いのないように、ふたりで生きていきたいですね」
取材・執筆 熊倉久枝
編集者、ライター。編集プロダクションを経て、2011年よりフリー。インタビュー記事を中心に、雑誌、WEBメディア、会報誌、パンフレットと多様な媒体の企画編集・ライティングに携わる。ペットメディア歴は、10年以上。演劇、映画、アニメ、教育などのジャンルでも活動。
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