保護猫活動の現場から—タレント 小野真弓さん
動物たちの隙間に住んでます(笑)」笑顔と葛藤の保護活動
「家の中で野良猫してていいよ」
懐かない猫にそう言える人は、どれくらいいるだろう。ピースニャンコのチームメンバー「GOGO groomers」の一員として、さらに千葉県動物愛護推進員としても活動するタレントの小野真弓さんは、そう言える数少ない人だ。その一言ににじむのは、保護活動への覚悟と優しさ。
9月20日~26日の1週間、りく・なつプロジェクト×ピースワンコ・ジャパンによって、動物愛護週間イベントが表参道で開催された。その名も「WAN DREAM GARDEN ~保護犬猫と人の幸せな暮らし方~」。保護犬猫の譲渡会やトークショーに多くの人が足を運んだ。
初日のトークショーに登壇した一人が、小野真弓さん。1時間にわたり、これまで彼女が出会ってきた保護猫たちのエピソードや、能登半島地震や地域猫活動の実態を語ってくれた。
被災地で見た現実と、ペット同伴避難の課題

小野さんが所属する「GOGO groomers」は、動物愛護センターでのボランティアトリミングや、保護動物の新しい家族探しを行っている、トリマーたちによる保護団体。
2024年の能登半島地震では、ピースワンコが開設した一時預かり施設に駆けつけて、被災した動物たちにトリミングやシャンプーといったボランティアサービスを提供してくれた。何を隠そう、このときの出会いが、ピースニャンコ誕生のきっかけでもある。
彼らが初めて能登に駆け付けた中に、小野さんもいた。
「私たちが行ったときは、まだ震災から2か月くらいしか経ってなかったので、水も出ない状態で。水を車に積んで行って、シャンプーもドライシャンプーでした」
なかなかペット同伴できる避難所が少ないことや、備蓄やクレートトレーニングの重要性にも話は及び、被災地を実際に見た小野さんの言葉は重かった。
「自治体に『ペット同伴避難できる環境を整えてほしい』と言いたいと思っていましたが、崖崩れなどで道路の復旧もままならない状況を見たら、これはペットの問題までなかなか辿り着けないなって。だからこそ、自分たちでも備えておくことが大事だなと感じましたね」
総勢12匹が暮らす家「動物たちの隙間に住んでます(笑)」

「クレートトレーニングは、うちもなかなかちゃんと出来てないんですけど(笑)」と、チャーミングに笑う小野さん。MCが自宅に何頭いるんですか?と尋ねると、予想を超えた答えが飛び出した。
「私が飼っている“うちの子”は、犬が2頭と猫が4匹で、合計6匹ですね。プラス、家族募集している猫が6匹です。昨日までは5匹だったんですけど、昨日『誰か預かれない?』とヘルプの連絡が来て、1匹増えました(笑)」
つまり、総勢12匹!
しかも保護したばかりの子は、感染症などを保有している可能性もあるので、隔離しておく必要がある。そのため「全室フリー」「寝室のみ」「玄関のみ」と、その子の状態によって行動範囲を決めているのだそう。
小野さんは「家中に動物たちがいるので、私はその隙間に住まわせてもらってます(笑)」と会場を笑わせていた。
地域猫活動の葛藤――“かわいい”だけでは守れない

小野さんにとっては、保護した動物たちはみんな忘れられない存在だが、特に思い入れ深い猫がいる。今は小野家の一員となっている黒猫・くーちゃんと、天国にいるくーちゃんの姉妹・こうちゃんだ。
くーちゃんは元々、地域猫活動でTNR(Trap捕獲・Neuter不妊手術・Return戻す)した野良猫。しかし捕獲した時点で妊娠しており、捕獲器の中で3匹の子猫を出産したのだ。元々野良猫だったこともあり、恐怖心から攻撃的だったくーちゃん。しかし小野さんが「家の中で野良猫してていいよ」と小野家に迎えてから、1年3か月ほど経った頃。それまで人間の手を拒否していたくーちゃんが、突然触らせてくれるようになり、今ではすっかり甘えん坊だ。
そしてこうちゃんは、交通事故に遭って肺に穴が開いていたのに、外で出産して子育てをしていた母猫。それがわかったのは、捕獲した後に息を引き取ったこうちゃんの死因を、獣医師が確かめてくれたから。さらに授乳している形跡があると言われ、小野さんたちは必死で子猫を探したという。
「幸い、4か月くらいの子猫だったので他の仲間が面倒を見てくれていて、今も元気に暮らしています。でも地域猫活動を立ち上げて最初のTNRだったので、猫を守ろうとしたのに死んでしまったことも、子猫からママを取ってしまったことも、すごくショックで……。こうちゃんの分も、くーちゃんは絶対に幸せにしたいんです」
このようにTNR活動で野良猫たちの現実を目の当たりにし、小野さんはしばしば葛藤を感じるという。
「猫のためにやっていることなのに、逆に猫を苦しめてるんじゃないかっていう葛藤を感じるときはあります。地域の猫に餌をあげている人が、苦情を言われて突然餌やりを止めてしまうこともあって、猫たちは人間に振り回されてるなって思ったりもしますし……。やっぱり“かわいい”だけでは守れないんですよね」
地域猫活動は、人と猫の共生のため

「そもそも地域猫活動というのは、人間の住環境を良くすることが大きな目的。そのために、猫が増えすぎないようにTNRして、地域で管理できるように餌やりやトイレのルール作りをするという活動なんです。そのためには、地域の人たちにしっかり説明して、地道に続けていく。そうすると意外と、猫が嫌いな人も理解してくださったり、ねぎらいの言葉をくださったりするんですよ。
猫嫌いの人も、『近所からいなくなってほしいけど、いじめたいわけじゃないし、殺すのはかわいそう』という人がほとんどなんですよね。中には『捕獲するのは楽しいから』って、活動に参加してくれる猫嫌いの人もいるんですよ(笑)」
メディアで広がる“保護犬猫”という選択肢

小野さんも出演しているバラエティー番組「坂上どうぶつ王国」をはじめ、近年は保護犬猫がメディアに取り上げられることが増えてきた。実際の保護活動に影響はあるのだろうか。
「やっぱり昔より、保護犬や保護猫の存在が皆さんに知られるようになったし、身近に感じる方も多くなったと思います。『動物を家族に迎えたい』というとき、保護犬や保護猫を選択肢に挙げてくれる方が増えていると感じますし、興味を持って深く学んでくださる方も増えていますね」
動物を飼おうと考えると子犬や子猫をイメージしがちだが、保護犬猫であれば成犬・成猫もいる。性格がある程度はっきりしているので、こちらの性格や生活スタイルと相性がいい子を選びやすいというメリットがあるのだ。
また自分で拾った野良猫を迎えることに比べれば、持っている病気などを知っておく事ができ、
ある程度人馴れやしつけもされている。“不幸な動物を救える”という以外の様々なメリットを、小野さんはトークの中で挙げていた。
現場の心も支える「ピースニャンコ」の支援

社会全体も保護犬猫への理解が高まりつつあるが、まだまだ現場には大変なことが山積み。その最たるものが、医療費の負担だ。
そこを軽減するべく生まれたのが、ピースニャンコの医療費支援制度。避妊去勢手術の費用だけでなく、高額医療費の支援も行っている。また小野さんが「特にありがたかった!」と挙げたのが、避妊去勢手術を搬送まで含めてサポートする事業。
「いつもは来てくださる獣医さんのご都合で、月数回しか手術日がないので、それに合わせて捕獲したりと大変なんですよね。でもピースニャンコさんは、こちらまで迎えに来てくださって、病院まで搬送して手術もワクチンも検査も済ませて、報告書とともに届けてくださるんです。その間、私は涼しい顔で撮影などの仕事をして、何ならスタジオの下で猫を受け取って帰ったことも(笑)。本当に助かりますし、新しいサポートの形ですよね」
動物も、人も、みんな笑顔で幸せな社会に

他にも嬉しい言葉を語ってくれた小野さんだが、特に胸を打たれたのは、次の言葉だ。
「気持ちがあっても、保護活動を続けられない人もいるんですよね。どうしても保護活動は孤独になりやすいので……。でも同じ気持ちで頑張れる仲間がいるから、頑張れる。身近な仲間だけでなく、ピースニャンコさん、ピースニャンコさんを支援してくださってる方。みんな一緒に同じ気持ちでいるんだと思うと、とても心強いですし、勇気が湧いてきます」
そしていよいよ、最後の質問。小野さんの「WAN DREAM」は?
「動物も、人も、みんな笑顔で幸せにいられる社会が、夢ですかね。やっぱり人も笑顔じゃないといけないと思いますし、犬も猫もヤギもカメもみんな生きてますし、私たち人間も動物の一種だと思いますし。みんなが幸せになる権利があると思うので、うまく共生して、みんなが幸せになれる社会になればいいなと思います」
取材・執筆 熊倉久枝
編集者、ライター。編集プロダクションを経て、2011年よりフリー。インタビュー記事を中心に、雑誌、WEBメディア、会報誌、パンフレットと多様な媒体の企画編集・ライティングに携わる。ペットメディア歴は、10年以上。演劇、映画、アニメ、教育などのジャンルでも活動。
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