エッセイ
2025.10.08
2025.10.08

「長靴をはいた猫」の主人公は誰?――物語の中の猫たち

世界中で愛されている昔話「長靴をはいた猫」。誰もが知っているはずなのに、意外とストーリーを思い出せない人も多いのでは? その知恵と大胆さで、とびっきりのハッピーエンドを叶えた猫の物語と、その背景にある豆知識を紐解いてみました。

三男坊がもらった遺産は、猫1匹

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このお話の主人公は“長靴をはいた猫”ではなく、貧しい粉ひきの三男坊。父親の遺産として、末っ子の彼は猫しかもらえなかったのです。これでは飢え死にするしかないと嘆く主人に、猫は「袋をひとつと、長靴を一足作ってください」と頼みました。

長靴を身に着けた猫は、ウサギを捕まえて袋に入れ、王様へ献上。そこで「主人のカラバ侯爵からの贈り物です」と、勝手に三男坊を貴族に仕立てあげてしまいます。

獲物を何度も届けていたある日、猫は王様がお姫様と川辺に行くことを聞きつけました。そこで三男坊=カラバ侯爵に川で水浴びをさせ、服が盗まれたことにして、貴族の服を王様からもらいます。実は美男子だったカラバ侯爵に、お姫様はすっかり夢中。

さらに猫は、領地を治める恐ろしい人食い鬼のもとへ。鬼の変身術を逆手にとってネズミに化けさせ、ぱくりと食べてしまいます。こうして城と領地は“カラバ侯爵”のものに。その財産に王様は感心し、三男坊はお姫様と結婚して幸せを手に入れました。

ペロー版とグリム版、同じ物語のちがう顔

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絵本で広く知られている「長靴をはいた猫(フランス語タイトル:Le Chat botté)」は、17世紀フランスの作家シャルル・ペローが、民話を元にして創り上げた物語。あのヴェルサイユ宮殿に、太陽王ルイ14世が君臨していた時代です。当時のフランスでは、貴族のサロンで昔話が流行していて、このお話も貴婦人や令嬢たちが楽しむために生まれました。

一方、あのグリム兄弟も19世紀のドイツで、同様の昔話を収集しています。こちらのタイトルは「靴はき猫(ドイツ語タイトル:Der gestiefelte Kater)」。王様に献上する獲物がヤマウズラだったり、人食い鬼ではなく大魔法使いだったりと、細かいところが少し違っているんですよ。

実はタイトルの言葉も、国によって少しずつニュアンスが違います。フランス語のタイトルも、ドイツ語のタイトルも、正確に翻訳すると「猫」ではなく「雄猫」。しかし英語タイトルでは、本作は「Puss in Boots」となっています。

「Cat」ではなく「Puss」とは何でしょうか?

この「Puss」というのは、猫をかわいがって呼ぶときの古い英単語。いわば「猫ちゃん」といったニュアンスで、「雄猫」と明言しているフランス語やドイツ語とは、ちょっと雰囲気が違いますね。

賢い動物と言えば、猫? 狐? 世界各地のバリエーション

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この猫のシンボルといえば、長靴。長靴といっても、現代の日本で言う長靴=雨靴ではなく、貴族が履いていたブーツです。この“長靴”というアイテムは、ペローのオリジナル。絵本によっては、羽根つきの帽子まで身に着けていることもありますね。

その外見からもわかる通り、この猫は野生の力ではなく、知恵と機転で主人の成功を掴んでいきます。例えば献上品のウサギは、爪と牙で狩るのではなく、エサを入れた袋を罠にして捕まえます。人食い鬼にも、まずはライオンに変身した鬼に驚いてみせてから、ネズミにもなれるかと持ち掛けます。しかも「そんなことは、とても無理だと思いますね。」と、ちょっと煽るような言い方で。

ところで昔話で賢い動物と言えば……そう、狐が有名ですよね。「長靴をはいた猫」に似た昔話や民話は世界各国にあり、“狐”が同じ役割を担っているお話も多いのです。そんな中、ペローは洗練された宮廷人たちに聞かせる話として、“猫”バージョンを選びました。

ペロー版のラストでは、主人を幸せにしたあとの猫は貴族になってのんびり暮らし、気まぐれにネズミを追いかけるくらい。きっと思う存分、日向ぼっこを楽しんだことでしょう。なんとも猫らしいラストですよね。

東映アニメーションの“猫”の正体

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さてこの「長靴をはいた猫」、日本では69~76年に『長靴猫』シリーズとして映画化されています(全3作)。

といっても原作に沿ったお話は第1作だけで、第2作、第3作はオリジナルストーリー。

第1作は海外の映画祭でも受賞していて、たびたびリバイバル公開もされた人気作です。製作会社は東映動画(現・東映アニメーション)。今も『プリキュア』シリーズをはじめ、子どもたちが夢中になるアニメ作品を手掛けている会社ですね。

第1作は、殺し屋トリオの猫に追われる主人公の猫「ペロ」が、家を追い出された青年に知恵を貸して、王女を連れ去った魔王と対決するという冒険ファンタジー。

この『長靴猫』シリーズの主人公「ペロ」は、東映アニメーションのシンボルマークにもなっています。きっとあなたも、映画冒頭で流れるロゴアニメーションを観たことがあるのでは?

『シュレック』シリーズから飛び出した新しい長靴猫

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最近では、ドリームワークス・アニメーションの映画「シュレック2」(2004年)にも“長靴をはいた猫”が登場し、スピンオフ映画が公開されています。2011年に公開されたのが、「長ぐつをはいたネコ」。さらにテレビシリーズが放送され、2022年には続編映画「長ぐつをはいたネコと9つの命」も公開されました。

こちらは『シュレック』シリーズのスピンオフ作品のため、原作からは離れたオリジナルストーリー。シュレックと出会う前の長靴をはいた猫・プスの大冒険が描かれています。かつて孤児院で暮らしていたプスは、ある事件によってお尋ね者となり、「魔法の豆」を探し続けていたのでした。

プスは、クールでダンディな英雄でありながら、時に愛くるしさも武器にする、“猫あるある”が詰まったキャラクター。俳優のアントニオ・バンデラスが声優を務めており、「シュレック2」で登場したときから高い人気を誇っています。

黒、茶トラ、キジトラ……あなたの好きな長靴猫は?

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ところで、「長靴をはいた猫」を想像したとき、どんな色や柄の猫を思い浮かべますか?

映画「長ぐつをはいたネコ」のプスは茶トラですが、原作には色や柄についての描写は一切ありません。そこでさまざまな絵本を調べてみたら、百人百様! 茶トラ、キジトラ、黒×白、グレー、黒……。目の色も黄、青、緑、オリーブと、どの絵本もそれぞれ異なっていて、驚かされました。

では“長靴”の色はというと、こちらも色とりどり。赤、黒、茶色が多いようですが、折り返していたり拍車がついていたりと、そのデザインは様々。毛色や目の色とともに、絵本作家やイラストレーターのオリジナリティが発揮される作品なのですね。

中でも独創的なのが、河出文庫版の「長靴をはいた猫」の挿絵。絵本作家の片山健は、本作の猫を、縞柄で片目に眼帯をつけた姿で描きました。大胆不敵な猫の性格と、本来の童話が持つ不気味な雰囲気が伝わってくるビジュアルは、訳者の澁澤龍彦もお気に入りだったのだとか。

また小学館の絵本「ながぐつをはいたねこ」の絵は、絵本「11ぴきのねこ」で知られる馬場のぼるが担当。「11ぴきのねこ」の猫たちは青のトラ柄と単色ですが、こちらは茶トラ柄。馬場のぼるのユーモラスな絵柄で読むと、また違った印象になりますよ。

小さな猫が運命を変える痛快さ

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小さな猫が知恵と機転を働かせて、大胆に運命を変えていく姿は、なんとも痛快! だからこそ、この物語は300年以上も愛されてきたのだと納得できます。

もしあなたのそばにいる猫が、ある日突然しゃべりだしたら……と想像してみると、楽しいかもしれませんね。

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