猫が吐いた!毛玉だけではない、猫の嘔吐の原因と受診の目安を解説【獣医師監修】

猫は嘔吐反射が犬より強いと言われており、犬以上によく吐く動物です。犬に比べて体が小さいため吐く量も少なく、一見「ちょっと吐いただけ」と思ってしまうこともありますが、嘔吐は病気のサインであることも。
この記事では、猫の嘔吐の主な原因、受診が必要なときと様子見で良いときの見分け方、保護猫で注意すべき嘔吐などを獣医師が解説します。嘔吐の原因を理解し、愛猫の健康を守っていきましょう。
猫の嘔吐の原因

猫が吐くときは、次のような原因が考えられます。
- 胃に毛玉が溜まった
- 消化器系の病気
- 消化管以外の内臓の病気
- 細菌やウイルス、寄生虫による感染症
- 食物アレルギー
- 代謝性・内分泌系の病気
- 中枢神経系の病気
- 誤嚥や中毒
それぞれ解説します。
胃に毛玉が溜まった
猫は毛づくろいで抜け毛を大量に飲み込むため、月に1〜2回程度、毛の塊を吐くのは問題ありません。毛玉といっても毛のボールが出てくるわけではなく、ねばついた細長い毛の塊を吐きます。
中には、毛玉を吐かずに、便に毛が混ざる猫もいます。
消化器系の病気
猫で嘔吐の原因となる代表的な消化管疾患を解説します。
胃炎・腸炎
食べ過ぎやストレス、急なフードの変更などで胃腸に炎症が起き、嘔吐をします。
炎症性腸疾患(IBD)
嘔吐が数週間〜数ヶ月と慢性的に続くときに疑われる病気です。免疫の異常反応により腸粘膜に炎症が起こると考えられています。食べているのに痩せていくのが特徴です。
消化管型リンパ腫
シニア猫に多く、炎症性腸疾患と症状がよく似ているため診断が難しい病気です。抗がん剤で延命できる場合があります。
消化管以外の内臓の病気
肝臓や胆のう、膵臓、腎臓などの内臓疾患も嘔吐の原因となります。
慢性膵炎
膵臓が自らの消化酵素で炎症を起こす病気で、猫では慢性的な嘔吐の原因になります。治療は食事管理と投薬を行います。
慢性腎不全
シニア猫の嘔吐でまず疑うべき病気の1つです。歳を取って腎臓の機能が低下すると体に尿毒素がたまって胃を刺激することで嘔吐が起こります。腎臓は一度傷つくと再生しないので完治はできませんが、食事管理や輸液で進行を抑えます。
細菌やウイルス、寄生虫による感染症
感染症は他の猫に移る危険があり、特に子猫や保護猫では注意が必要です。
猫汎白血球減少症
猫パルボウイルスの感染が原因の感染症です。激しい嘔吐と、水様性または血の混ざった下痢により体力を消耗し、子猫やワクチン未接種の猫では死亡率も高いです。
サルモネラ症
生肉やネズミ、鳥などの野生動物から感染し、汚染された糞便で感染が広がります。子猫や保護猫、多頭飼育の現場で特に注意が必要です。
猫回虫や瓜実条虫などの寄生虫
猫回虫は猫に最も一般的な寄生虫で、胃や腸に寄生し嘔吐物や便に細長い虫体が混ざって出てくることがあります。
一方、瓜実条虫はノミを介して感染し、嘔吐物や便には米粒状の片節が見られます。
いずれも動物病院での駆虫が必要です。
食物アレルギー
犬ほど多くはありませんが、猫でも食物アレルギーが原因で嘔吐や下痢を繰り返すことがあります。
代謝性・内分泌系の病気
ホルモンや代謝異常により嘔吐を引き起こす病気もあります。
甲状腺機能亢進症
甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気で「高齢猫がよく吐く、元気でよく食べるが痩せてしまう」というときはこの病気を疑います。
糖尿病
インスリンの不足や作用低下によって血糖値が慢性的に高くなる病気です。シニア猫や肥満の猫に多く発症し、進行すると嘔吐や脱水の原因になります。
中枢神経系の病気
脳腫瘍、脳炎などで嘔吐中枢が刺激され、嘔吐が見られることがあります。
誤嚥や中毒
ソファやカーテンなどの布類、子どものおもちゃ、紐などを間違って飲み込んでしまうことがあります。内視鏡で取れなければ手術で摘出します。
さらに、玉ねぎやチョコレート、薬剤などは少量でも中毒を起こし、嘔吐の原因になります。動物病院で胃洗浄や催吐処置といった対応が必要です。
嘔吐や腹痛があるときの行動の変化

猫は本能的に体調不良を隠そうとします。飼い主が日常の仕草や姿勢の変化に気づくことが、病気の早期発見につながります。
嘔吐のときに見られる行動
- 吐く前に人目を避けてベッドの下や家具の隙間などに隠れる
- 吐いたあと、毛づくろいをして落ち着こうとする
腹痛のときに見られる姿勢や仕草
- 香箱座りをせず、背中を丸めてうずくまるような姿勢で動かない
- お腹をかばうように横になり、普段と違う寝相をしている
- お腹を触られると嫌がって逃げる
- トイレで長時間うずくまっている
動物病院を受診すべき猫の嘔吐のチェックポイント

次のポイントに当てはまる場合は動物病院を受診し、状況を獣医師に伝えましょう。
1. 嘔吐の回数や持続
- 何度も繰り返し吐く
- 少量ではあるが何日も嘔吐が続いている
- 吐こうとしているのに吐けない(吐出困難)
- 水を飲んでも吐いてしまう
2. 体調の変化を伴う
- 元気や食欲がない
- 発熱、下痢、腹痛などを伴う
- 子猫、シニア猫、持病のある猫で嘔吐が目立つ
3. 嘔吐物の異常
- 血や虫が混じっている
- 便のようなにおいがする
嘔吐物の色やにおいから考えられる猫の病気の原因

猫の嘔吐は量こそ少ないものの、色やにおいによって病気の手がかりが得られることがあります。動物病院での診断にも役立つため、嘔吐物を片付ける前に必ず確認しておきましょう。
白い泡や黄色い液体
白い泡は胃液、黄色い液体は胆汁です。猫は犬ほど空腹嘔吐は多くありませんが、食事の間隔があきすぎると吐くことがあります。
1回程度なら心配はいりませんが、毎日のように続く場合は胃炎や胆汁逆流性胃炎が疑われるため受診しましょう。
便のような形態やにおい
腸に異物や腫瘍があって内容物が逆流している可能性があります。できるだけ早く動物病院を受診しましょう。
鮮やかな赤い血
嘔吐物に鮮血が混ざる場合は、口や食道で出血している可能性があります。繰り返すときは消化管出血のサインとして受診が必要です。
赤黒い血、コーヒー色の嘔吐
胃や腸からの出血があると、血液が消化液と混ざって赤黒く変色した血やコーヒーかす状の嘔吐物になることがあります。
自宅で様子見で良い猫の嘔吐

次のようなケースでは、すぐに病院へ駆け込まなくても、自宅で経過を観察して問題ないことがあります。
- 精神的ストレス
- 乗り物酔い
- 草を食べた直後
- 早食いによる吐き戻し(吐出)
それぞれ解説します。
精神的ストレス
猫は環境の変化に敏感で、引っ越しや模様替え、同居ペットの変化、来客などがストレスとなり嘔吐することがあります。
乗り物酔い
猫も車酔いをすることがありますが、犬に比べて移動の機会が少ないため日常的な原因にはなりにくいでしょう。嘔吐以外には、移動中に鳴き続ける、よだれを流す、失禁するなどの症状が出る猫もいます。
草を食べた直後
毛玉を吐きたいときなど、猫草を食べ、その刺激で吐くことがあります。
早食いによる吐き戻し(吐出)
多頭飼育などで競うように食べると、フードを未消化のまま吐き戻すことがあります。これは「嘔吐」ではなく「吐出」と呼ばれるものです。
早食いの対策は、以下のことを試してみましょう。
- 早食い防止皿を使う
- フードを小分けにする
- 多頭飼育では部屋を分けて食べさせる
吐出は早食いだけでなく、食道の病気や異物、狭窄などで起こることもあります。吐出を繰り返す場合は必ず動物病院で検査を受けてください。
猫は錠剤が食道に留まり炎症や潰瘍を起こすこともあるため、薬を与えた後は水を飲ませて胃まで送るようにしましょう。
吐いた後の対応
嘔吐の原因を取り除いても嘔吐が続く、元気がない、食欲が戻らないといった場合は早めに受診してください。
吐いた後は半日ほど絶食し、胃腸を休ませます。脱水を防ぐため水は少量なら与えて構いません。食事を再開するときは、様子を見ながら少しずつ与えるようにしましょう。
保護直後の猫で注意したい嘔吐

外で生活してきた猫は、ワクチン未接種や生活環境の不安定さから、飼い猫よりも感染症や寄生虫にかかっているリスクが高くなります。
保護直後の猫で気をつけるべき嘔吐の原因は以下のような原因によるものです。
- 猫汎白血球減少症
- 猫回虫
- 瓜実条虫
- 中毒
猫汎白血球減少症
3種混合ワクチンの接種で予防できる病気です。非常に感染力が強く、他の猫に次々に移るため、すぐに動物病院への受診や隔離などの対応が必要です。
猫回虫
母乳を介した母子感染のほか、土壌に含まれる虫卵を舐めたり、鳥、ネズミなどの小動物を捕食したりすることで感染します。
瓜実条虫
ノミを介して感染するため、駆虫薬を定期的に使用していない野良猫では、室内飼育の猫に比べてリスクが高くなります。
中毒
農薬や殺鼠剤などの中毒物質を口にして嘔吐を起こすケースもあります。命を落とす危険もあるので、すぐに病院を受診しましょう。
まとめ
猫は嘔吐しやすい動物ですが、その原因は毛玉だけではなく、内臓の病気や感染症、寄生虫、中毒など様々です。
嘔吐が一度きりで元気や食欲がある場合は様子見できることもありますが、繰り返す・長く続く・血や異物が混じる・他の症状がある、などといった場合は受診が必要です。嘔吐物の色やにおい、行動の変化を観察して記録しておくことが診断の助けになります。
病気のサインを見極め、愛猫の健康を守りましょう。
【執筆・監修】
獣医師:安家 望美
大学卒業後、公務員の獣医師として家畜防疫関連の機関に入職。家畜の健康管理や伝染病の検査などの業務に従事。育児に専念するため退職し、現在はライターとしてペットや育児に関する記事を執筆中。
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