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エッセイ
2025.07.23
2025.07.25

“かわいそう”で終わらせない。保護動物に“役割”を。一般社団法人「HugKu-Me」理事長・牛島加代さんインタビュー

あなたが動物保護に心を寄せ、胸を痛め、活動を支えたり参加したりしているのは、なぜ?

多くの人は「かわいそうだから」と言うだろう。猫や犬を大切に思うから、その生命を少しでも救いたい。そんな優しく尊い想いによって、保護活動は行われてきた。

けれど彼女はこう語る。「だから保護活動はボランティア頼みだし、いつまでも犬や猫は“物”扱い。そうではなくて、彼らを“社会に役立つ存在”に変えることが必要なんです」と。動物を“福祉の受け手”から“福祉の担い手”に変える――この鮮やかな視点の転換がもたらすのは、保護活動の未来を根底から変える可能性。

それを実現する第一歩が、今年、千葉県八千代市で始まる。

タフで優しい、保護活動の旗振り役

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彼女の名前は、一般社団法人「HugKu-Me(はぐくみ)」の理事長・牛島加代さん。ピースニャンコ・チームメンバーのひとりだ。トリミングサロンを経営しながら、2013年に犬のプロによる保護団体を、2021年に地域猫の団体を立ち上げ、今はこの2組織を「HugKu-Me」に統合。ボランティアトリミング、フォスターサロン活動(保護動物にケアやトレーニングを行い、譲渡に繋げる活動)、猫のレスキューやTNR活動、子どもたちへの愛護教室や啓蒙活動と、幅広く活動している。

トリマーとして働き、3人のお子さんを育てながらの保護活動。さらに、日本ペットサロン協会副理事長や千葉県動物愛護推進委員といった役職も務め、PTA活動や地域活動にも積極的に参加している。

カラッと笑いながら話してくれた、「子どもたちが小さかった頃は、スキマ時間が2時間あったら、市民プールに行ってましたね!」というエピソードからもわかるように、彼女はとにかくタフでエネルギッシュ。溢れんばかりのバイタリティを持ちながら、周囲に引け目を感じさせることなく、むしろ「一緒にやりましょうよ!」とみんなを巻き込む、天性のリーダーシップの持ち主だ。

「動物に活躍の場を与える」というアイデア

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牛島さんの原点は、小学4年生のとき。転校生だった彼女は、野良犬だけが友達で、放課後はいつも一緒に遊んでいた。

「その子が殺処分されてしまったときに、子どもなりにすごく理不尽だと思って。『将来はそういうことがない社会にしなきゃいけない』と考えました」

中学生で“雑種の犬でも、トレーニングして作業犬として生きられる選択肢を与えることはできないのか”という問題提起を作文に書き、コンクールで受賞。動物をかわいがるだけではなく、“仕事を与えることで社会貢献できる存在へ”という、今につながる彼女のイデアだ。

そこから「まずは犬のプロになろう!」とトリマー職に就き、ボランティアトリミングという活動を知り、この世界に飛び込んだ。約13年間、毎月2回、自分の出産前後も通い続けた。譲渡活動や保護猫活動にも取り組むようになった。パンクせずに続けるため、時には活動の量もセーブしながら、粘り強く、熱意をもって。

迷いも葛藤も抱えて前を向く現場のリアル

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こんなにもタフな牛島さんでも、どうしようもなく打ちのめされることがある。ピースニャンコのYouTubeやInstagramで公開されている、生活困窮家庭でのレスキュー現場に密着した動画。そこには、普段とはまるで違う彼女の姿が映っている。その現場には、保護依頼された数よりもはるかに多い子猫たち、さらに妊娠中の母猫もいた。

「猫の堕胎は、私、できないんです。あの母猫は白血病だったので、どうしても産ませられなかったけれど……それでもつらい。つらいですよ。だって、いるんですもん。そのお腹の中に」

「レスキューの現場って、すごく難しい。いつも『何が正解なんだろう』と考えながら行動しています。私がその家庭に介入して疲弊していくのが正解ではないと思うし、だけど私が介入しないとその動物はどんどん不幸になっていく」

どちらを選んでもゲームオーバーにしか見えない、負の連鎖。だからこそ彼女は、ゲームルールを根本から変えようとしている。

「根本解決しないといけないと思ったとき、何が大事かって、教育なんです。それも動物“愛護”ではなくて、動物“福祉”。人間の正義ではなくて、その動物にとってどういう環境がベストかを基準にして考える、そういう教育をするべきだと思います」

だから彼女は、子どもたちに向けた啓発活動にも力を入れている。近隣の子どもたちは、牛島さんの教えを受けて、「トリマー=動物保護に取り組む仕事」と思っているのだという。

ピースニャンコの在り方はまさに「適材適所」

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もうひとつ、保護活動をしていてどうしても大変なことは、金銭面。

「お金さえあればやってあげられることって、いっぱいあるんです。寄付だけでなく、セミナー開催やカレンダー販売でお金を集めてはいるんですけど、やっぱり医療費の負担は重くて」

だから、医療費支援という「ピースニャンコ」の活動は、非常に大きいと牛島さんは語ってくれた。「すごく助かります!」と。

「地域の人と協力して行う保護猫活動は、どうしても大きな組織になりづらい。でも、猫の医療支援を行っているピースニャンコさんが支援を行ってくれることで、私たちは地元活動に集中できる。すごくバランスが取れていて、いい仕組みだと思います」

そしてもうひとつ、牛島さんがピースニャンコに期待することがある。

「獣医師監修の信頼できる医療知識を提供してくださること。私たちはトリマーですから、病気に関して勝手に判断してはいけないという教育を受けているんです。そこで信頼できる情報発信があれば『この記事を読んでみて』と言えますし、一般の飼い主さんが検索したときにも正しい情報にアクセスできる。いいことしかないですよね」

子どもも、大人も、動物も。支えあう“街”を作る

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「精力的に活動を続ける彼女が、今年から新たに始めるのが、人間と動物、両方の福祉が融合する“複合型福祉施設”だ。

高齢者福祉(老人ホーム、デイサービス)、児童福祉(放課後等デイサービス)、動物福祉(保護犬猫カフェ&シェルター、フォスターサロン)。さらに地域のコミュニティルームやイベントスペース、ドッグランも。

保護犬猫カフェでは定期的な子ども食堂や不登校児に向けた学習支援も計画しており、障害者雇用も予定している。障害者も地域の一員として働く姿を、子どもたちや保護者も自然に知ることができる――という狙いだ。

そんなふうに、様々なジャンルの福祉施設やコミュニティをひとつに集めることで、小さな化学変化がそこかしこで生まれていく。多様な人々が出会うコミュニケーションの場が生まれる。

写真:愛護教室の様子

保護動物がいることで、福祉がさらに潤っていく

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「そこに保護犬や保護猫を、コミュニケーションのアイテムとして置いたら、絶対に良い効果を生むと思いませんか?」

街の真ん中に、犬と、猫と、優しい大人たちがいる。そこには障害のある人やお年寄りやいろんな人がいて、優しい心でお互いを受け容れあっていて、子どもたちはその中で育っていく。そんな街が、牛島さんの理想だ。

その街で重要な役割を果たすのが、犬や猫が持つ癒しの力。

「犬や猫がいるだけで会話が弾むし、立場や能力を気にせずに『動物好き』な仲間になれますよね。彼らがいることで、人は豊かになる。それがここで証明されれば、社会が変わっていくんじゃないかと思うんです」

「言い続ける」ことで、社会は少しずつ動き出す

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動物愛護と人間の福祉は別物。それが当然とされている社会で、牛島さんはずっと「人間の福祉として動物愛護をやるべきだ」と言い続けてきた。

動物×子どもの福祉であればイメージされやすい。生命の大切さを伝える情操教育やアニマルセラピー。困り感を抱える子どもたちにも、犬や猫は黙って寄り添ってくれる。だがそれは、大人や高齢者にとっても同じ。むしろ、高齢者ならではのメリットもある。

「だから私は、行く先々で『こういうことがやりたいんです、いつか協力してください!』と言い続けたんです。そうしたら、地元の企業さんや地主さんが応援してくださって、たくさんの方々が力を貸してくださって、今回こんな素晴らしい形になった。言い続けることは本当に大切ですね!」

言い続けるだけではない。前述の通り、牛島さんは様々な場所でみんなのために力を貸して、実績と繋がりを作り続けてきた。有言実行の彼女の姿を見ていたからこそ、多くの人が「今度は自分の番」とばかりに、彼女に力を貸してくれた。

「このご縁が私のところに来たってことは、“やりなさい”と言われているということだと思うんです。今まで私は、動物や子どもたちやみんなに、愛を注ぎ続けてきた。今度は私がそれを受け取る番なんだよって、皆さんが言ってくださったんです」

写真:トリミングサロン2階には猫の状況に分けた部屋が複数ある

動物を“助けられる側”から“支え合う関係”へ

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「動物愛護活動ではなく、教育事業や福祉活動の中に保護犬猫がいる形に、構造を変えてしまう」

動物を通じた、社会への貢献活動。そう価値を転換することで、子どもから高齢者までの幅広い事業が可能になり、参加企業にとってのメリットも大きくなる。個人レベルでも、動物好きな人以外に、子どもたちや困っている誰かのために何かしたいという人すべてが、関係者になれる。

「困ってる人のために、何かしたいな」という気持ちを持ちながら、なかなか背負う自信がなくて一歩を踏み出せない人にも、牛島さんは「じゃあ私が形作るから、できるところだけ手伝って! みんなで楽しくやろう!」と、笑顔で手を伸ばしてくれる。

その姿は、見ているだけでワクワクする。少しでも一緒に行動したら――きっと、見たことのない未来が待っている。

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取材・執筆 熊倉久枝
編集者、ライター。編集プロダクションを経て、2011年よりフリー。インタビュー記事を中心に、雑誌、WEBメディア、会報誌、パンフレットと多様な媒体の企画編集・ライティングに携わる。ペットメディア歴は、10年以上。演劇、映画、アニメ、教育などのジャンルでも活動。

 

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