保護猫ってどんな猫?
2025.04.25
2025.04.25

【岩手県大船渡市 山火事】“ペット避難”の舞台裏。行政と地元の動物愛護団体の連携が命をつなげる

「ペットも家族。避難も一緒に……」

この想いは、犬や猫を飼っているご家族の方々にとってはごく自然で、切実な願いです。しかし、同じ尊い命ですが、県や市が管轄する避難所では“ペット”の同伴が認められない避難所が少なくありません。災害が起きる度に課題にあげられるこの問題に対し、岩手県はどのように向き合ったのか。大船渡市の山林火災で奔走した、ある動物愛護団体を取材しました。

災害時におけるペット避難の課題とは

災害時の避難所は、不特定多数の人が避難する場所で、集団生活になります。犬や猫を飼っている人にとっては、家族同然のペットたちと一緒に避難したいという思いはありますが、なかには動物が苦手な人や、動物アレルギーの人がいる可能性もあります。

こうした理由からペット同伴を禁止する避難所は多く、結果的に車中泊でペットと一緒に避難生活を続けたり、やむを得ずペットを手放してしまったりするなど、ペット避難は災害の度に課題とされてきました。

行き場を失った犬や猫も、人と同じように帰る場所を失った被災者です。しかし、災害時における避難所の開設や運営は“人”が優先され、ペットに関する支援はどうしても後手後手にまわってしまう傾向にあります。そのため、外部から多くの支援団体や動物保護団体が早い段階で被災地に入っても独自に活動を行なわざるを得ず、結果的に非効率的な支援になってしまったりすることが、これまでの災害現場で多く発生していました。

しかし、今回、大船渡市で起きた大規模な山林火災ではこれまでの災害と比べて、かなり早い段階から市がペット支援にも着手。その迅速な対応を実働面で支えたのが、長年、地元で活動する動物愛護団体でした。

避難指示の発令と同時に活動を開始

今回、お話をお伺いしたのは、岩手県釜石市にて譲渡型保護猫ハウス『保護猫アンドゥ』を運営する鈴子真佐美さん。飼い主のいない猫の保護・譲渡活動を続けながら動物愛護団体『人と動物の絆momo太郎』の代表も務め、人とペットが幸せに共生できる社会をめざした、さまざまな活動をおこなっています。

『人と動物の絆momo太郎』を立ち上げた当初は、ドッグトレーナーを招待し、しつけ教室がおもな活動でしたが、メンバーの多くは2011年の東日本大震災を経験。活動を続けていくなかで必然とペット防災にも意識は向けられ、数年前から行政にも積極的に働きかけながら、災害時におけるペット避難の方法を広める活動にも取り組むようになったといいます。

そしてこうした地域防災にもつながる地道な活動が認められ、『人と動物の絆momo太郎』は岩手県と災害時におけるペット避難に関わる協定を締結。その数は少しずつ増え続け、現在は岩手県獣医師会や動物愛護団体など12団体が同協定に参画しています。

協定の目的は、発災時に家族がペットとともに迅速かつ機動的に避難するために連携することで、年1回、協定を結んだいくつかの団体が集まり、同行避難訓練等を実施してきました。

この協定にもとづき、岩手県は発災から2日後の28日に大船渡市周辺を活動区域とするふたつの動物愛護団体に「被災動物救護に係る協力」を要請。3月1日には、大船渡保健所に「同行避難したペットの一時預かり相談窓口」が設置され、市内に開設された各避難所に相談窓口を周知するチラシも配布されました。

一方、鈴子さんは2月26日の山火事の発災とほぼ同時に、動き出していたといいます。山火事は消火活動を上回るスピードで延焼が続き、市は1896世帯4596人に避難指示を発令。市内に開設された12の避難所に、1200人近い方が避難生活を強いられました。

この避難対象区域には、鈴子さんが一緒に活動をしている仲間がいたことからすぐに連絡をとりあい、行動を開始。まもなくして行政から正式な要請を受け、市と連携しながら行き場を失った猫や犬たちを一時的に預かる支援に奔走しました。

協定が事前に県と保護団体で結ばれていたことで行政との連携はスムーズにいき、早い段階から情報の拡散も含めたペット支援が展開できたといいます。

山火事の発災直後から奔走。市と連携しペット避難を支援する

鈴子さんをはじめ保護団体のメンバーは各避難所をまわり、ペットに関して困っている人や、ペットと一緒に車中泊をしているご家族に声をかけながら支援物資を集め、必要な人びとに配布していきました。

行政からの指示のもと、ペット関連の支援物資は一時的に保護猫ハウス『保護猫アンドゥ』に集約。ピースワンコも鈴子さんと連絡を取り合い、必要とされた物資を『保護猫アンドゥ』に送付させていただきました。また、鈴子さんを信頼する地元の多くの愛犬家・愛猫家からも支援物資がたくさん届いたといいます。

「本当に全国からフードやペットシートなどさまざまな物資が届けられ、物資と合わせてメッセージを添えていただいた方も多く、本来であれば一人ひとりにお礼をしなくてはいけないのですが、あまり時間がなく……。でも、各避難所にチラシを配って、アンドゥに行けばペットに関連する物資があることを早い段階で告知できたこともあり、おかげさまで多くの方に支援物資を届けることができました。ご支援をいただいた方々に心から感謝しています」

通常、物資支援などは市が窓口となり、そこから各避難所や在宅避難者へ配布されます。しかし被災地では情報が錯綜し、支援に関する大切な情報を知っている人と知らない人が生じてしまうことがあります。

今回は、動物のことをよく知る保護団体と県がペット支援に関する協定を締結していたことで、ペット支援に関する情報の集約と発信は市の保健所に一元化され、支援の実働は動物愛護団体が担うという役割分担がされていたことで、大きな情報格差のような問題は生じなかったといいます。

動物をよく知る保護団体が支援に入ったからこそ救えた命

また、ペットのことをよく知る動物保護団体が早い段階で支援に入れたことで、助けられた命もありました。

ある家族では、一緒に暮らしていた猫が妊娠。2月18日に4匹の子猫が生まれましたが、その直後に山林火災が発生。母猫は火事騒ぎで逃げてしまい、家に戻らないまま避難指示が発令され、ご家族は子猫だけを連れて避難したそうです。

「赤ちゃん猫は、3~4時間おきにミルクを与えないといけません。本来であれば母猫が乳を与えてその役割を担いますが、その母猫がいない上に、飼い主のご家族は自分たちの避難生活で精一杯。子猫たちの世話までは厳しいとのことから、私たちが預かって少し成長するまでお世話することにしました」

子育ては母親の猫に任せていたこともあり、ご家族は準備も十分な知識も持っていなかったといいます。もしも鈴子さんのような保護団体がその場にいなかったら……支援の手が数日でも遅れていたら、子猫たちの命はつながらなかったかもしれません。

成果と課題。ペット同伴避難所の早期開設をめざす

大船渡市の山林火災の支援で、協力団体と手分けして預かった犬と猫は合計32匹。避難指示解除にともない、一緒に連れて帰る方もいる一方で、帰る家を失い、引き続き避難所生活が続く方や、家に戻れても生活再建に不安を感じる方のなかには「もう少し預かってほしい」という相談も寄せられました。

協定を結んでいたこと、またこれまでにない初動の早さで、ペット避難で困っている多くの方を助けられた一方で、あらためて災害時のペット避難の難しさを感じたこともあったといいます。

「預かった猫や犬たちは各ご家族の方々が落ち着かれたら随時、お戻していく予定です。ただ、今回の大船渡市の山林火災では、山火事はすぐに鎮火され、一時的な避難ですぐに家に戻れると思い、ペットを置いてきてしまったというご家族もいます。長引く避難所での生活でどんなにさみしい思いをして不安だったか、想像するだけでこちらも胸が締め付けられる思いがします。特に猫の場合、犬とは違って普段から自由に家と外を行き来させているご家族も多いことから、いざというときに身近にいるとは限りません。今回のような災害では、どうするのが一番よかったのか、そうした難しさも感じました」

また、今回の災害では、保護団体の協力のもと、比較的早い段階でペット同伴が可能な避難所も開設されました。避難所の設営から受け入れは、ほかの避難所と同じように市が担当し、受け入れ後の避難者の生活やペットのサポートは、『人と動物の絆momo太郎』が請け負うというスキームも明確化されていたといいます。

ただ、3月8日には開設できたものの、ペット同伴避難所は、他の避難所に比べ一歩遅れてしまったことも影響し、最終的には希望者がいなかったそうです。

「最初からペット同伴避難所があれば、入りたかったという声もありましたので、もっと早く市と連携してほかの避難所と同じタイミングで開設できるような仕組みをつくらないといけないですね。

支援で大事なのは選択肢を与えることだと思っています。私たちのような保護団体に一時的に預ける、あるいは知り合いや親戚のところにペットと一緒に避難する、またもしかしたらペットと一緒に過ごせるのであれば、あえて車中泊を選ぶというご家族もいるかもしれません。そのなかにペット同伴避難所という選択肢があることが、ペットと暮らすご家族にとって安心につながるはずだと考えています。

避難所を開設するには、市との連携が不可欠です。これまでの活動のひとつの成果として、比較的早い段階でペット同伴避難所を開設することはできましたが、それでも避難する方にとってはもっと早い対応が必要なのだということは、今回大きな学びになりました」

「課題も多かった」といいますが、地元をよく知る小さな保護団体と行政が連携して災害に備えてきた結果、多くのペットとその家族が助けられたことに大きな意味があります。

今回の災害は、比較的局地的なものでしたが、東日本大震災などでの経験も活かしながら、より大きな災害が起きたときでも対応できるように、日頃の保護活動を通して沿岸部地域の宮古、大船渡、釜石の各保健所と連携。広範囲をカバーできる体制を整えていくそうです。

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