エッセイ
2025.01.14
2025.01.14

「はじまりの愛情は、猫をも救う」ピースニャンコプロジェクトスタート

いよいよピースウィンズが保護猫支援に

2025年1月より、保護猫支援プロジェクト「ピースニャンコ」が始動する。10年以上にわたって保護犬支援を行ってきたピースワンコ・ジャパンの姉妹プロジェクトだ。

ピースニャンコは、ピースワンコの「西東京ふれあい譲渡センター」を拠点として、保護猫ボランティアへの医療支援を軸に活動。他にも譲渡支援をはじめ、様々な活動を計画している。

このプロジェクトの大きな後押しをしてくださった支援者の沢田(仮名)さん、そしてプロジェクトを立ち上げたピースウィンズ・ジャパン(ピースワンコ、ピースニャンコの運営母体)の塩田千尋さんの話から、ピースニャンコが誕生した経緯を紐解いてみた。

命を助けるためなら、1日でも早く

「私には動物を飼う資格なんてない」

そう心を定めて、半世紀。子どもの頃に愛犬を守れなかった後悔から、彼女はずっと「動物と暮らしたい」という気持ちを押し殺してきた。しかし家族が立て続けに世を去り、その遺産を寄付したことがきっかけで、彼女自身の遺贈寄付も考え始めたとき、猫を支援できる寄付先としてピースウィンズを紹介される。

「今はまだ保護犬支援だけですが、もしご寄付をいただければ、保護猫支援事業の開始に大きな力となります」

ピースウィンズの遺贈寄付担当者の話を聞き、「命を助けるお手伝いをできるなら、1日でも早いほうがいい」と生前寄付を選んでくださったのが、ピースニャンコの支援者・沢田さん。担当者の言葉通り、この寄付によって、ピースニャンコプロジェクトは開始に向けて本格的に走り出した。

猫たちが支えてくれた母と兄の心

お兄様が飼っていたアビ

2019年に亡くなった沢田さんのお兄様と、2022年に亡くなったお母様は、とてもよく似ている親子だった。どんなにつらいことがあっても、決して表には出さず、ひとりでじっと耐え抜いてしまう。人のために労を惜しまず、それを口に出して誇るようなことはせず、相手が気付かなくても構わない。

「そんなふたりの心に寄り添って助けてくれたのが、猫たちでした」

お母様がご実家で飼っていたのがチビ、すぐ隣で暮らすお兄様が飼っていたのがアビ。どちらも近所に迷い込んできた雑種猫で、動物好きの沢田さんは遊びに行くたびに大喜びでかわいがった。

「私が実家に行くと兄がアビを連れてきてくれるのですが、少しすると仕事に戻ってしまうんですよ。そうするとアビは玄関のドアの前に座って、にゃーお、にゃーおって恋しがるんです。そんな甘えん坊の猫ちゃんでした」 チビとアビは虹の橋を渡ったが、お兄様は亡くなるまでお骨を大事にしていたそうだ。

渡せなかった贈り物の代わりに

そんな心優しいお兄様は、クラシック音楽の中でもベートーヴェンを好んでいた。そこでドイツ旅行をプレゼントするため、コツコツお金を貯めていた沢田さん。しかしお兄様は病魔に襲われ、そのプレゼントを贈ることは叶わなかった。

「兄が亡くなって5年が経ったとき、そのお金を兄が好きだった猫ちゃんを助けるために役立てられないかと考えたんです。私の遺贈寄付のことも含めて、その寄付先を遺贈寄附推進機構に相談したのです」

その後の展開は、冒頭に記した通り。沢田さんはピースニャンコ始動の大きな後押しをしてくださっただけでなく、今後も様々な形でこのプロジェクトを応援したいと話してくれた。

「きっと母も兄も、ピースニャンコへの寄付を喜んでくれていると思います。本当に猫が好きだったから。ですからピースニャンコのプロジェクトで、たくさんの猫ちゃんたちの命が救われてほしいし、世の中の意識も変わってほしい。そのために私も一緒に発信できたらなと思ってます」

ピースニャンコが生まれた契機

こうして2024年夏に大きな追い風を受けた、ピースニャンコプロジェクト。実は前々から、保護猫支援の構想自体はピースウィンズ内にもあり、細々ながら保護猫団体の支援を試行したこともあったのだが、まだしっかりした形にはなっていなかった。その想いに形を与え、先頭に立って走り出したのが、ピースウィンズ・ジャパンの広報も兼務する塩田さんだ。

子どもの頃の夢は獣医だったという塩田さんは、セカンドキャリアでは動物に携わりたいと考え、ピースウィンズ・ジャパンに入職。今は16歳と11歳の保護猫2匹と暮らしており、いずれピースウィンズが保護猫支援も始めたらいいな、と思いながらピースワンコの活動に奔走していた。

「動き始めたきっかけは、令和6年能登半島地震。最初は災害支援のメディア対応などを担当していたのですが、ピースワンコもペット支援を行うことになり、スタッフがニーズ調査のために現地に入りました」

そこで直面したのが、猫に関する相談の多さ。飼い猫が迷子になってしまった、誰も面倒を見ていない猫がずっといてかわいそう、あの地域の猫たちをなんとかできないか……。ピースワンコとしては猫への対処法を持っていないため、スタッフからの相談が塩田さんのもとに来ると、伝手を辿って保護猫の団体に協力を依頼し、少しでも現地の声に応えようと動いた。

「そんな折、珠洲市にピースワンコが開設したペットの一時預かり施設に、ボランティア団体『GOGO groomers』の猪野さんたちが、東京からトリミングに来てくれたんです。後日、お礼を伝えたいと猪野さんのご自宅に伺ったら、保護犬も保護猫もいて、赤ちゃん猫にミルクをあげるボランティアもしていて。漠然としか知らなかった保護猫活動の現状を、そこで目の当たりにしました」

猫を助ける活動をしたい。その想いを強めた塩田さんは、さっそく動き始める。まずは猪野さんに紹介してもらい、多くの保護猫ボランティアにヒアリング。何が必要なのか、どんな支援を求めているのか。そうしてピースウィンズならではの保護猫支援の形が見えてきたのが、夏頃のこと。そう、沢田さんがピースウィンズへの寄付を決めた頃だ。

保護団体と獣医師会をつなぐ

同じ頃ピースワンコでは、2025年1月にオープンする西東京譲渡センターの話が進んでいた。かつて小学校だった敷地に建つ複合医療施設に入る西東京ふれあい譲渡センターは、地域貢献も大事なミッションのひとつ。塩田さんはこのセンターを、西東京市や周辺地域で保護猫活動をしている人々にも役立てられるのではないかと考えた。

「保護猫活動で重要なことの1つは、繁殖を抑えること。つまり避妊去勢手術です。同時に、保護猫活動で金銭的な負担が大きいのも、この手術費や継続的にかかる医療費。そこで西東京市獣医師会と事業提携を行い、このセンターを拠点にして、私たちと連携する保護猫ボランティア(チームメンバー)とご協力いただける動物病院をつなぐ仕組みを考えました」

センター内の一室を「ニャンコルーム」として、病院とチームメンバーの中継地点に。ベーシックな医療設備もそろえて、いずれは往診にも来てもらえる場所にしたいと塩田さんは考えている。

「他にも、家族募集中の猫の情報やチームメンバーの紹介もする予定です。ピースワンコのように譲渡会もやりたいですね」

さらに、西東京市から離れた地域にも支援を届けるために、手術車の導入も計画中。これが現実となれば、災害時でも駆けつけて支援を行うことができる。能登を実際に見て、現地の声を聴いた塩田さんは、その価値を痛いほど知っている。

「避妊去勢手術を受けていない被災猫たちの繁殖が進めば、過酷な環境を強いられる猫が増えてしまう。それを救うために、能登では今も多くのボランティアや保護猫団体が活動していますが、手術車があれば輸送の負担などを減らせます。他にもやりたいこと、必要とされていることはたくさんあるので、ひとつずつ実現していきたいです」

「もう必要ないね」と言える日まで

塩田さんの保護猫たち

大きく状況が動いた夏から、わずか半年。ピースニャンコは2025年1月にスタートするが、まだまだ決まってないことも多く、走りながら作っていくことになる。この新しい挑戦には、おそらく、様々な困難が待ち受けているだろう。大変なことばかりですよと、塩田さんは朗らかに笑いながら言う。

「でもね、実際に活動している猪野さんたちに『本当にありがたい』と言っていただけて、沢田さんのように理解してくださる方に背中を押していただけて。そうしてピースニャンコの活動が譲渡に繋がって、殺処分数が減っていったら、こんなに嬉しいことはないです」

ピースワンコの活動が始まって、10年以上。「ピースワンコのように、ピースニャンコも長く続くといいですね」と言いかけて、ふと言い淀んだ。本当はピースワンコも、ピースニャンコも、少しでも早く必要ではなくなったほうが良いのだから。

「そうなんですよ。ワンコもニャンコもどんどん家族を見つけて、保護犬も保護猫もいなくなって、もう事業が必要ない状態になるのが一番いいこと。でもそれまで、犬も猫も人間も幸せになって『もう要らないね』と言える日まで、続けられたらいいですね」

立場も方法も人それぞれだけど、間違いなく猫を愛する多くの人々の想いと願いを乗せて。

ピースニャンコは2025年1月、最初の一歩を踏み出す。

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取材・執筆 熊倉久枝
編集者、ライター。編集プロダクションを経て、2011年よりフリー。インタビュー記事を中心に、雑誌、WEBメディア、会報誌、パンフレットと多様な媒体の企画編集・ライティングに携わる。ペットメディア歴は、10年以上。演劇、映画、アニメ、教育などのジャンルでも活動。

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